(画像はイメージです/PIXTA)

予期せぬ別れに直面したとき、人は何を思い、どう乗り越えるのか。書籍『もう会えないとわかっていたなら』(扶桑社)では、遺品整理会社、行政書士、相続診断士、税理士など、現場の第一線で活躍する専門家たちから、実際に大切な家族を失った人の印象深いエピソードを集め、「円満な相続」を迎えるために何ができるのかについて紹介されています。本連載では、その中から特に印象的な話を一部抜粋してご紹介します。

無念な亡くなり方をしたからこそ──

私は葬儀業界で働いています。でも、葬儀業界で働いているといっても、普通の葬儀屋さんとは少し違います。

 

葬儀屋さんには家族経営のところが多く、人の死の予定など立てられませんから仕事は突発的です。そのため、葬儀屋さんには人手不足の会社が多いのです。私の会社はそんな葬儀屋さんにセレモニースタッフを派遣する、人材派遣会社なのです。そんな仕事をしていますから、私は多くの葬儀屋さんを知っています。

 

私には、尊敬している葬儀屋さんがいます。それは、横浜にある葬儀会社の社長、鈴本さんです。人生という旅路を終えた方の最期を見送る上で、多くを見習いたいと思っています。2ヵ月ほど前の早朝、その鈴本さんから電話がかかってきました。

 

「コロナでお亡くなりになった方なんだけど、大丈夫かな?」

 

2020年以降、新型コロナウイルスが猛威をふるい、日本でも多くの方が亡くなりました。葬儀会社によっては、新型コロナが原因で亡くなった方の葬儀を断るところもありますが、鈴本さんは断りません。

 

「そんな無念な亡くなり方をしたからこそ、ちゃんと見送りたい」と言うのです。

 

本来なら、うちのスタッフの誰かを派遣するのですが、その日は早朝であることと、鈴本さんとの仕事ならという思いで私が病院へ向かいました。

 

鈴本さんと私は、コロナ病棟の入口でご遺体を引き取りました。新型コロナで亡くなった方の遺体は、透明な納体袋で全身が覆われたあと、さらに黒い納体袋に納められ、密閉されます。

 

ストレッチャーを押して、地下へ向かうエレベーターを待っていたとき、ご遺族から声をかけられました。故人のお孫さんで高校生の女の子でした。

 

「おばあちゃんを家に帰らせてあげたいんですけど、無理でしょうか?」

 

最近は、ご遺体を家に帰らせないケースも多くあります。近所への配慮やマンション高層階などで運び入れることが大変なこともあるからです。コロナで亡くなった方の場合、葬儀場へ行くことなく、荼毘(だび)に付すこともあるのです。

 

聞けば、故人は一年近くも入院していて、ずっと家に帰っていなかったのだといいます。

 

「最後くらいは、家で家族と一緒に過ごさせてあげたいんです。お願いします」

 

女の子が私たちに頭を下げると、彼女の母親が気づき、近づいてきました。

 

「ひなちゃん、無理言ったらダメよ」

 

言いながら涙を流す姿には、自分だってそうしてあげたいのだという思いが滲み出ていました。

 

「少しお待ちください」

 

鈴本さんは病院の事務員のもとへ向かい、しばらく何かを話して戻ってきました。

次ページ「あなたの子どもで幸せでした」

本連載は、2022年8月10日発売の書籍『もう会えないとわかっていたなら』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございます。あらかじめご了承ください。

もう会えないとわかっていたなら

もう会えないとわかっていたなら

家族の笑顔を支える会

扶桑社

もしも明日、あなたの大切な人が死んでしまうとしたら──「父親が家族に秘密で残してくれた預金通帳」、「亡くなった義母と交流を図ろうとした全盲の未亡人」、「家族を失った花屋のご主人に寄り添う町の人々」等…感動したり…

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