「おめでとうなんて言われたこと一度もなかったのに…」死後、無口だった夫のケータイが突然鳴ったワケ 

「おめでとうなんて言われたこと一度もなかったのに…」死後、無口だった夫のケータイが突然鳴ったワケ 
(画像はイメージです/PIXTA)

予期せぬ別れに直面したとき、人は何を思い、どう乗り越えるのか。書籍『もう会えないとわかっていたなら』(扶桑社)では、遺品整理会社、行政書士、相続診断士、税理士など、現場の第一線で活躍する専門家たちから、実際に大切な家族を失った人の印象深いエピソードを集め、「円満な相続」を迎えるために何ができるのかについて紹介されています。本連載では、その中から特に印象的な話を一部抜粋してご紹介します。

突然鳴った、解約したはずの携帯電話

うちの事務所があるのは、つい最近まで最寄り駅が無人駅だったような場所で、人や仕事の多い都会とは違い、家族のような付き合いのある顧問先も多くあります。

 

僕は税理士として、毎日そんな顧問先を回り、たくさんの話をしてきます。税務上の相談はもちろんですが、無駄話のような雑談だってたくさんします。話をしないと相手のことがわかりませんし、ちょっとした世間話の中にも、僕が本業とする分野でアドバイスできることがあるからです。

 

そんな付き合いのおかげで、なんでも話してくれる人が増え、最近では、恋愛相談や離婚の相談なども持ちかけられるようになってきました。

 

そんな事務所の受付には、自慢のカウンターが置かれています。僕が父親の税理士事務所を継いだとき、顧問を務める大工の和田さんが、お祝いにと作ってくれたものです。

 

「祝いだから作ってやるけど、ニスはお前が自分で塗れ」

 

大工らしくぶっきらぼうに、そう言われたことを覚えています。それでも結局、和田さんはニス塗りも手伝ってくれ、いわば僕と和田さんの共同作業で生まれたカウンターです。

 

大工の和田さんとも他の顧問先と同様、家族ぐるみの付き合いをしてきました。

 

七〇代後半の和田さんと、和田さんよりもちょっと年上の姉さん女房の奥さん。お子さんたちは独立して離れて暮らしていますが、とても仲のよい家族でした。

 

これは、そんな和田さんが亡くなったときの話です。

 

僕は悲しみに暮れながらも、会社に籠もり、和田さんの相続の手続きをしていました。その時、会社の電話が鳴りました。和田さんの奥さんからでした。

 

「さっき、あの人の電話が鳴ったのよ」

 

奥さんの話では、解約して通話のできなくなった和田さんの携帯電話が、突然鳴ったというのです。

 

「よくわからなくて気になるから、ちょっと見に来てくれない?」

 

和田さんの携帯電話はいわゆるガラケーで、しかも、かなり古い型のものでした。鳴った音を止めるため、奥さんが電源を切っていました。

 

音が鳴った原因を調べるため、僕が電源を入れると小さなディスプレイにオレンジ色の光が灯りました。思った通り、パスワードの設定もされていません。着信履歴を見てみましたが、奥さんの言った時間に着信はないようでした。

 

携帯が鳴ったのは朝の六時頃だったと言いますから、和田さんが設定した目覚ましかとも思いましたが、和田さんが亡くなってから、携帯が鳴ったのはその日が初めてだといいます。

 

次に僕は『アラーム設定』の確認をしました。一番上に、「3月18日」というその日の日付が表示されていました。設定時間は朝の六時。

 

──これだ。

 

僕は奥さんに日付の確認をしてみました。

 

次ページアラームの日付に込められた意味

本連載は、2022年8月10日発売の書籍『もう会えないとわかっていたなら』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございます。あらかじめご了承ください。

もう会えないとわかっていたなら

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