漫画原作家は編集者との打ち合わせは毎回ではありませんが、ほぼ3日に1度の暴飲暴食。パソコンに向かって原稿を書いているときだけがむしろ休肝日。当然動きません。こんな生活を40歳から20年以上続けると人の体はどうなるのでしょうか。還暦から筋トレを始めた城アラキ氏が著書『負けない筋トレ 還暦から筋トレにハマったら、「肉体」と「人生」が激変した!』(ブックマン社)で解説します。

ランニング、ジム、自転車も挫折した

■諦めと開き直りはいつも同居

 

諦めと開き直りはいつも同居している。このへんは女子と変わらない。ウエストがきついからとゴム入りスカートに手を伸ばした瞬間、女性も何かが少し決壊する。自意識のボーダーラインをちょっと越え、大阪のオバチャンに一歩近づく。「飴あめチャン食べる〜?」まであと少しだ。そしてある日突然気づいて愕然となる。読者であるあなたも次をぜひ試してみて欲しい。

 

まず服を脱ぎ、パンツも脱いで真っ裸になろう。両踵かかとをつけ直立する。背筋を伸ばし、顔は正面を見て両手は両脇に。そしてソロリソロリと少しだけ視線を下げて足のつま先を見てみる。と、つま先どころか……。「え〜。腹の肉に隠れてチ○コ見えないじゃん!」。チ○コが消えていた。

 

■道具と理屈には凝る

 

無論、それまでだって運動をしなかったわけじゃない。原作家なんて居職の職人商売だから、むしろ体を動かすことはいつも心がけた。ただし仕事柄、どんなことでも理屈と道具から入る。どこかに面白いネタがないかと常に探しているのだ。結果、何かに凝ると関連書籍をアマゾンで全部ポチって大人買い。本棚ひとつがその分野で埋まることとなる。

 

若い体育会系の「グズグズ言わずにガツンとやりゃいいんだ」ができない。「グズグズ言ったあげくピクリともやらない」のが特徴だ。しかも、理屈先行だから頭に描くイメージと現実のギャップにもいらだってしまう。道具も常にオーバースペックで、技量が追いつかないのも失敗の理由。わかっているのに失敗の経験が身につかない。ま、これは年齢のせいというより、性格の問題でもある。

 

■ランニングに挫折した理由

 

ランニングがこんなに定着する以前から近所を走ったこともある。青山3丁目の自宅からスタートし青山墓地に出て、絵画館前を通り明治神宮を原宿駅に抜け、表参道に戻ってこれで約8㎞。都会を走るのは風景が刺激的で飽きない。着飾ったオシャレな美人をチラチラ横目で見ながら追い抜いて走る楽しみだってある。飽きるのは走るという行為だけだ。美人見学だけなら、ワンコの散歩のついでに銀杏並木のベンチに座っていれば済むとすぐ気づいてしまう。ワンコもその方が楽でいいし。

 

■ジムにも通った

 

無論、ジムにだって通った。ティップネスから、できたばかりのゴールドジムまで。しかし今ならわかる。ただ漫然と目の前のマシンに向かい、有酸素運動のトレッドミルで終わる筋トレはすぐ飽きる。飽きてたちまち幽霊メンバーになった。

 

そういえば3年前は水泳にも凝った。トレーニング用DVDもさんざん見て一から勉強し直した。なんとかジムのプールをクロールで1㎞泳げるようにはなったが、スピードが伸びない。いつも小学生に簡単に追い抜かれ自尊心をへし折られてプールからも去った。

 

■自転車にも乗った

 

自転車漫画を試すという理由で、自転車を何台も買ったこともある。ほぼ半世紀ぶりの自転車、それもロードレーサーで都心を走るのは怖い。最近の自転車があんなに軽くて早いとは思わなかった。八ヶ岳の別荘地に持っていって練習した。標高1300m。車はいないが道は思いっきり急坂だ。

 

ビンディングを付けたトレックは超初心者が乗りこなすにはハードルが高過ぎた。そもそも走り出しのゆるい上り坂を踏み込めず、パタパタと転倒する。林のなかから鹿が何事かと立ち止まって見つめている。打ち身、擦り傷で満身創痍 、手をケガしてキーボードも打てぬ。腹が立って自転車を車庫に叩き込んで挫折した。

 

今になって思えば自転車を車に積んで平坦な場所で練習すればよかったが、このあたりが還暦過ぎると頭が固い。「昔は簡単にできたんだからできぬはずがない」と強く思い込んでいる。

 

城 アラキ
漫画原作家

 

本連載は、城アラキ氏の著書『負けない筋トレ 還暦から筋トレにハマったら、「肉体」と「人生」が激変した!』(ブックマン社)より一部を抜粋し、再編集したものです。

負けない筋トレ

負けない筋トレ

城 アラキ

ブックマン社

『ソムリエ』『バーテンダー』など、数々のお酒にまつわる傑作漫画の原作を手掛けてきた著者は自他ともに認める酒呑みであり、美食家だ。3日に一度は暴飲暴食。仕事柄、1日の歩数が500歩なんてザラだった。運動もしない日々を…

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