中高年になると、老化や「死」が身近になってくるが…
■二つの「体力」と「心の体力」
世界中が不安と恐怖の黒雲に包まれ、現代文明がいかに脆かったのか、いやでも気づかされた。人類にとってこの戦いは、完全勝利が難しいらしい。長い戦いになりそうだ。となると、できるのは勝つことではなく「負けない」ことかもしれない。
今のところ、特に中高年がこれに負けぬには、基礎体力が運命を左右すると言われている。富貴栄華にかかわらず、最後の最後、頼れるのは己の体力だけなのだ。
この体力だが、実は2種類ある。ひとつは「行動体力」。いわゆる筋力や持久力、柔軟姓やバランス能力。もうひとつが「防衛体力」。ストレス抵抗力や免疫力などだ。「防衛体力」は体のなかの働きで、見えないし数値化もしづらい。が、「行動体力」が上昇すると、「防衛体力」も上昇することは知られている。
本連載は「だから読者のみなさまもぜひ筋トレを」という趣旨の本ではない(無論、その意図もあるけど)。そういう、ただ健康を目的にしてトレーニング法を説明する本は他にもある。ネットに情報も溢れている。私だって参考にしてきた。
しかし、本連載は少々違うのだ。
そもそも私は漫画の原作家だ。本気の筋トレ歴も2、3年で、いわば素人である。歳はただ今現在……なんと67歳にもなった。要は、本連載を読んでくれているあなたと同じ中高年で、かつ初心者なのである。
しかも筋肉ムキムキの格闘技系漫画ならまだしも、何十年も酒の話ばかりを書いてきたから、自他共に認めるメタボオジサンだった。しかし、だからこそ本連載を書く意味があると思った。ここを強調したい。実は、中高年が筋トレをする最も重要な「意味」について書かれた文章は、過去なかったのだ。その意味とは何か――。
体力に「行動体力」と「防衛体力」があると書いたが、中高年だからこそ必要な体力がもうひとつある。いわば「心の体力」というようなものだ。
人生の折り返しを過ぎ、かつては遙か彼方に感じられた「死」も眼の前をかすめる。私自身も大腸ガンを経験して、いやでも人生を振り返った。今回の世界的な疫病の蔓延にかかわらず、老化や死さえ少しずつ身近になってくるのが中高年だ。
こんなとき、体の体力以上に必要なのが「心の体力」だ。大事なのは人生の後半期、自分自身に真剣に全力で向き合うための心の強さだ。誤魔化さず、偽らず、もう一度自分自身を真正面から見つめ直す謙虚さだ。
中高年の筋トレは、そんな力も養ってくれる。その意味で、本連載は「読む筋トレ」でもある。読んで「心の体力」も鍛えられる。