メタボ大歓迎、体重は不明である
■私、漫画の原作家です
最初に私ことを少し説明したい。漫画原作=漫画のための脚本を書くのが仕事だ。黙々と日々パソコンに向かい「一太郎」の画面でシナリオを作る。最近はネーム原作といって、元々は漫画家さんだった人が話を考え、コマ割りとラフ絵まで書くことも多い。昔ながらにシナリオ形式で書く原作家は少なくなってきたので、私はほとんど絶滅危惧種だ。
私が書いた原作は編集者を経由して漫画家さんに渡り、やがて漫画誌に掲載される。過去いちばん売れた作品が『ソムリエ』『ソムリエール』とか『バーテンダー』『バーテンダー6stp』とか。なぜか酒がらみなのは、もちろん本人がノンベイだからだ。
ノンベイな原作家が酒をテーマにした原作を書くと、その体はどうなるか。『バーテンダー』というバーを舞台にした漫画の原作が、実際に完成するまでを紹介するとわかりやすい。
■原作家のメシと酒
まず担当編集者と打ち合わせをする。開始はたいがいまだ陽の残る夕刻の銀座だ。和洋中、その日の気分でメシを食いながら日本酒かワインを飲む。ノンベイはおおむね食いしん坊だ。漫画編集者のいちばんの才能は食いしん坊な作家に付き合える強靱な胃袋を持つことだから、食いしん坊が2人揃う。
互いにガツガツと箸がすすむ。酒もすすむ。フレンチやイタリアンならボトルのシャンパーニュから始まってグラスの白、赤を何杯か。こうやって今回の話で扱うカクテルとストーリーの大筋が決まったとする。たとえば夏ならミントを使ったモヒートが定番だ。
食後はバーに移動して「モヒートを」。何度も飲んで知り尽くしたカクテルでも必ず再確認する。1杯で帰るのはバーテンダーさんに失礼だからもう1、2杯は違うものを頼む。これで終わりではない。できれば違ったバーテンダーさんの違ったモヒートも試して話に生かしたい。二軒目に移動する。
「モヒートを。何か変わったアレンジある? なるほど、モヒートにミントじゃなく本場キューバのイエルバ・ブエナを使うのね。そりゃ面白い」で、終わりにはならない。三軒目に移る。この頃になるとただの酔っ払い。仕事のことなど忘れ、最後はシングルモルトで締めたくなる。「酒のアルコール度数と美味しさは比例する」が信念だから、飲むのは度数50度超のカスク(原酒)だ。
その後は「ちょっと小腹も空いたね。ラーメンでも食って帰るか」となって、時計の針はすでに零時を大きく回っている。
■私の腹はシャンパーニュとカクテルでできている
かつて女優の故・川島なお美さんは「私の体はワインでできている。血管のなかはカベルネ・ソーヴィニヨンが流れている」と言った。何度か一緒に飲んだこともある。青山の自宅でテレビの撮影も一緒にした。セクシーさのなかに無邪気なあどけなさが残る美人だった。それならとばかりに、オヤジも開き直る。
「太り気味? いいんだよ。私の腹はね、シャンパーニュとカクテルでできてンだから」
■メタボ大歓迎
昭和生まれは働き者である。打ち合わせは月に1本だけではない。最盛期には週刊誌の連載1本、隔週誌の連載2本、月刊誌2本をさまざまなペンネームで書きまくって都合合わせて月に10本。打ち合わせは毎度ではないが計算上は、ほぼ3日に1度の暴飲暴食。こうなるとパソコンに向かって原稿を書いているときだけがむしろ休肝日だ。当然動かない。1日の歩数が500歩なんて日さえざらにある。
こんな生活を40歳から20年以上続けると人の体はどうなるか。
体重は不明である。体重計は見ないからすでに捨てている。腹囲なんて知らない。江戸時代の刀鍛冶の漫画原作を書いたついでに、着物に凝ってスーツも捨てた。着物がいいのはむしろ腹が出ていないと帯の収まりが悪いからメタボ大歓迎なのだ。