(※写真はイメージです/PIXTA)

95歳、認知症父のじーじは本人曰くNHKから頼まれたという自分史の執筆に余念がない。突然、認知症星人に変身し、「今なら、返済しなくてもいい金が借りられるんだ」から家を買えと命令してきたという。連載「見つめてひらめく介護のかたち『楽しむ介護』実践日誌」の著者の黒川玲子さんが認知症の父を介護する日々を現場報告する特別編をお届けします。

認知症父「俺のケアマネは職務怠慢だ」

台所で朝食の用意をしていると、なにやら殺気だった気配。「すり~すり~」というじーじのすり足で歩く音と「す~は~っ、す~は~っ」と荒い鼻息が聞こえる。恐る恐る振り向くと、認知星人ダース・ベイダー版に変身したじーじが立っているではないか。

 

私が振り向くや否や、「おい、ケアマネの契約書を持ってこい」とじーじ。明らかに戦闘態勢である。無視しようとも思ったが、認知症対応の5原則「無視しない」が頭をよぎったので、理由を聞いてみた。そうしたら、なんと、ケアマネを首にすると言うではないか。

 

だいたい、じーじはケアマネの仕事をよくわかっておらず(多くの要介護高齢者はそうだと思うが)、度々、「お前が言わないのなら、俺が直接ケアマネに文句を言う」といちゃもんをつけるので困っている。面倒くさいことにならなきゃいいなと、心の中で思いつつ、精一杯の優しい声で「何があったの?」と聞いてみた。

 

「俺のケアマネはデイにはいないんだ(常駐していないということらしい)。これはあきらかに職務怠慢だ」とじーじ。

 

「じーじのケアマネさんは、デイにいなくていいんだよ」

 

と答えると、怒りん坊星人のスイッチON! そして、怒りん坊星人の標準語(怒ると必ず敬語になる)で、

 

「あ~たは、本当に何もわかってらっしゃいませんね。普通ケアマネというのはデイにいて、私の面倒をみてくれるのがあたりまえなんですよ」

 

デイサービスにはデイサービス専門のケアマネがいるが、じーじ職務怠慢だというケアマネは、ケアプランを書いてくれるケアマネのことを言っているのだと思う。じーじの担当のケアマネは、そもそもデイサービスにいる必要もないのだが。

 

まあ、この状況でこんなややこしいことを言ってもきっと火に油をそそぐだけだろうと思いつつ精一杯の笑顔で話しを聞いているのも関わらず、じーじはすますヒートアップ。

 

そこで、「ケアマネさんに何をしてほしいの?」と聞いてみた、「わたくしはですね、老眼鏡も買いにいけないんですよ。こんなことがあっていい訳がな~いじゃあ~りませんか。これはケアマネの仕事なんですから、遂行していただかないと困りますよね」と一言。

 

へ? 老眼鏡をケアマネが買いにいかないことを怒っているのか?

 

「老眼鏡なら、私が一緒に買いに行ってあげるよ」と言うと、一瞬顔色を変えたあと、だんまりを決め込んで、仏頂面。

 

しか~し!

 

「ピンポ~ン」

 

デイのお迎えが来たとたん、私には見せたこともないような笑顔で、

 

「今日は天気がいいですなぁ~。」

 

と出かけていくじーじ。相変わらず、すっげ~外ヅラ良夫君なのであった。

 

黒川 玲子
医療福祉接遇インストラクター
東京都福祉サービス評価推進機構評価者

 

 

認知星人じーじ「楽しむ介護」実践日誌

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黒川 玲子

海竜社

わけのわからない行動や言葉を発する前に必ず、じーっと一点を見据えていることを発見! その姿は、どこか遠い星と交信しているように見えた。その日以来私は、認知症の周辺症状が現れた時のじーじを 「認知症のスイッチが入っ…

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