認知症に新聞は不要か?「持続化給付金を借りて家を買う」騒動 (※写真はイメージです/PIXTA)

95歳、認知症父のじーじは本人曰くNHKから頼まれたという自分史の執筆に余念がない。突然、認知症星人に変身し、「今なら、返済しなくてもいい金が借りられるんだ」から家を買えと命令してきたという。連載「見つめてひらめく介護のかたち『楽しむ介護』実践日誌」の著者の黒川玲子さんが認知症の父を介護する日々を現場報告する特別編をお届けします。

「返済しなくてもいい金が借りられる」

デイサービスが休みの土曜日、この日もじーじは朝から「NHKに頼まれた(本人曰く)」という自分史の執筆に余念がない。書き始めて何年も経つが、いまだに終わらないのには訳がある。

 

それは、じーじが原稿用紙に自分史を書く→準夜勤ちゃん(じーじの孫)がパソコンに打ち込み原稿用紙版に印刷する→印刷された物をじーじが読む→気に入らない文章がある→原稿用紙を切り刻んで、修正をするためにセロテープ片手に切張りをしようとする→バラバラになった原稿を並べ変えようとするが訳が分からなくなる→また初めから書き直す。もう数年この作業の繰り返しだからなのである。

 

自分史執筆中の認知症父のじーじ。
自分史執筆中の認知症父のじーじ。

パソコンで打ち出した原稿用紙を切り刻んでは張り付ける。この校正らしき作業を、私は「じーじ版コピペ作業」と呼んでいる。執筆中、じーじが認知星人に変身する確率は低いので、こちらは平和な時間を過ごせるのでありがたいと思っていたら、事件は起こった。

 

「おい! あの家は買ったのか?」

 

最近我が家の周りは新築ラッシュ、数ヶ月ごとに土地が整地され「〇×注文住宅販売」の旗がひらめく。そのたびにじーじは「あそこの家を買う」と言いだす。言い出すだけならば平和なのだが、本気で買う手続きをするからと、販売会社に連絡をしろと言い出すので、正直、面倒くさいのである。つい数ヶ月前にも同じような事件を起こしたばかりなのだ。

 

奇襲攻撃的な質問に、「へ? 買ってないよ!」と、あまりにもドストレートな返事をしてしまった。ま、まずい……! が! 時すでに遅し。

 

「なんでだ!」

 

明らかに、怒りん坊星人に変身している。

 

「今なら、返済しなくてもいい金が借りられるんだ」

 

返済しなくても済むなら、お金を借りるとは言わんだろうと心の中で思ったが、そこはあまり気にしない。

 

「こんなチャンスに家を買わないなんて、お前は、本当に世の中のことを知らんな。なんなら俺が借りてやってもいいぞ、どうせ返さなくていい金だ!」と、またまた家を買う気満々なのである。

 

「ほら、ここに書いてあるからよく勉強しろ!」と言い放ったじーじの手には、なんと、昔の新聞の切り抜き、それも、「持続化給付金」。

 

「そ、それは、家を買うためは使えないかも……もう一回よく読んでみて」というと、真剣に読みだしたじーじ。しばらくすると、「なんだ期限が過ぎているじゃあないか。お前は本当にもったいないことをしたな」と一言。「いや待てよ。他にもあったはずだ」と、新聞の切り抜きを探すじーじであった。

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    医療福祉接遇インストラクター
    東京都福祉サービス評価推進機構評価者

    埼玉県生まれ。博報堂勤務を経て、埼玉県内の介護事業会社勤務。医療福祉接遇インストラクター、東京都福祉サービス評価推進機構評価者。2001年より成長期の大手介護事業会社において、広告宣伝室室長として、社外向けの広報誌の作成、入居者促進業務に携わる。
    2015年、株式会社ケー・アール・プランニング設立。編集プロダクションとして介護・福祉を専門とした雑誌の編集を行う傍ら、接遇マナーインストラクターとして、介護付有料老人ホームやデイサービス等で介護の現場に即した研修を行っている。

    著者紹介

    連載見つめてひらめく介護のかたち「楽しむ介護」実践日誌

    認知星人じーじ「楽しむ介護」実践日誌

    認知星人じーじ「楽しむ介護」実践日誌

    黒川 玲子

    海竜社

    わけのわからない行動や言葉を発する前に必ず、じーっと一点を見据えていることを発見! その姿は、どこか遠い星と交信しているように見えた。その日以来私は、認知症の周辺症状が現れた時のじーじを 「認知症のスイッチが入っ…

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