定年後の熟年離婚、判決に影響は?
相談者である専業主婦のあい子さん(60代女性・仮名)は、夫から離婚したい旨を告げられ、熟年離婚を検討しています。
離婚原因は夫の不倫です。
あい子さん夫婦は現在別居中で、夫は「別居年数が長ければどのような理由でも離婚できる」と信じています。ただ60代で定年を迎え、70代では免許返納や介護など様々な年齢の壁があり、あい子さんはこの事が離婚の判決に影響しないのか、心配しています。
そこで、あい子さんが離婚拒否した場合、離婚判決に高齢であることが影響する場合があるのか、ココナラ法律相談「法律Q&A」に相談しました。
有責配偶者からの離婚請求と年齢の関係は?
夫婦が離婚するためには、どのような事情が必要となるでしょうか。
夫婦双方が離婚に同意している場合には離婚原因は問題となりませんが、あい子さんのように一方が離婚を拒否するケースですと、民法上の離婚原因が必要となります。
離婚原因は、民法第770条第1項に規定があり、大きく次の5つに分かれます。
- 不貞行為
- 悪意の遺棄
- 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき
- 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
- その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき
夫が主張している別居期間の長さは、5.婚姻関係を継続し難い重大な事由に該当します。一般的には、別居期間が3年間から5年程度であれば、夫婦関係は形骸化しており、婚姻を継続し難い重大な事由に該当するとされています。
ただ、今回の離婚理由は夫の不倫であるため、夫はいわゆる有責配偶者(離婚の主たる原因を作った配偶者)に該当します。有責配偶者からの離婚請求は、原則として認められていません。
しかし、判例上、有責配偶者からの離婚請求であっても、(a)夫婦がその年齢及び同居期間と対比して相当の長期間別居し、(b)その間に未成熟子がいない場合には、(c)相手方配偶者が離婚によって精神的・社会的・経済的に極めて過酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえる特段の事情がある場合のない限り、有責配偶者からの離婚請求であるということだけで許されないとすることはできないとされています(最大判昭62年9月2日判決)。
これに即して考えてみましょう。まず、(a)別居期間の長さについてです。
夫の離婚請求が認められるには、別居期間が相当期間長くなければなりません。有責配偶者からの離婚請求が認められる別居期間は、前述した3~5年では足りず、8年~10年ほど必要といわれています。
ですが、別居期間は、年齢や同居期間との対比によるものですので、あい子さんご夫婦の年齢や年齢から予測される同居期間を考えると、10年より長い別居期間が必要であると判断される可能性もあるでしょう。
別居期間が長くなればなるほど離婚の方向に判断が傾くのは事実ですので、そのような意味では夫の考えも一理あるといえます。
次に(c)離婚を認めることによって相手方配偶者(今回のケースだとあい子さん)が過酷な状態に置かれるかについてです。
あい子さんは60代と比較的ご高齢であり、専業主婦であるとのことです。ご年齢やご経歴から、これから就職することは困難であると予想されます。また、経済的な援助を依頼できるご親族も少ないかもしれません。
そうすると、もし夫の離婚請求が認められてしまうと、経済的に過酷な状況におかれることは容易に想定できます。
このように、あい子さんの年齢も、離婚を認めるか認めないかのひとつの考慮事情となるので、このような意味では、年齢が離婚を認めるかの判断に影響することはあります。
ですが、過酷条項は、諸々の事情の総合考慮ですので、有責配偶者である夫が、評価に値する金銭的負担を申し出ている場合には、離婚を認めてもあい子さんが経済的に過酷な状態とはならないと判断されかねないので注意が必要です。
あい子さんは離婚を拒否するとのことなので、今後の対応としては、夫は有責配偶者であり有責配偶者からの離婚請求は原則として認められないことを主張します。
また、あい子さんご夫婦の年齢や同居期間からして別居期間は短期間である(実際の同居年数や別居期間は不明ですが、別居期間は短期間であると仮定します。)とともに、あい子さんの年齢を考えると就職は困難であり、離婚が認められてしまうと、あい子さんが経済的に過酷な状態に置かれるため、夫からの離婚請求は認められないと主張するのが良いかと思います。