元勤務先との労働問題、口コミサイトへの投稿は違法?
相談者の方は、以前勤めていた会社の退職時に有給休暇を取得させてもらえなかったり、退職日を勝手に決められたりしたことに対して、不満を抱いていました。
そこで上記について、会社の評判などを口コミサイトに投稿することを検討しています。しかし、事実であってもこの行動が違法行為にあたらないのか、また会社から訴えられてしまう可能性はないのかについて心配しており、ココナラ法律相談「法律Q&A」に相談しました。
名誉毀損として訴えられる可能性はある
近年インターネットでの口コミを目にする機会は圧倒的に増えましたが、それに合わせて法的なトラブルに発展するケースも非常に多くなりました。また、侮辱罪が厳罰化されたりなど、社会的にいわゆる誹謗中傷に対して厳しく接する傾向も強まっています。
これに対して、表現の自由の過度な規制を危険視する見方も強まっており、インターネットでの表現に関する考え方は複雑化してきています。
今回ご相談者の方が書き込もうとしているのは、「退職に際しての有給休暇取得の拒否」や「退職日の一方的な指定」という労働問題に関するものでした。
近年は求職者が企業の働きやすさなどの情報を口コミサイトで収集することもよくあります。相談者の方が書こうとしている内容を見た求職者は、この企業への就職をためらうようになるでしょう。
ご自身がひどい扱いを受けてきて、その事実や会社がしたことを社会に知ってほしいというお気持ちはもっともなものだと思います。ただ、それにあたっては気をつけなければならないことがあります。
実際に質問がされたココナラ法律相談の「法律Q&A」を見ると、複数の弁護士が投稿することについて慎重な意見を述べていますが、私も基本的にはこの考え方と同じです。
企業側は、これらの書き込みを名誉毀損であるとして争ってくることがありえます。投稿の内容が会社の社会的評価を低下させるものであるということは間違いないでしょう。
しかし、社会的評価の低下があるとして、どのようなものでも名誉毀損になるという訳ではありません。投稿の内容が公共の利害に関する事実であり、投稿が公益目的でなされ、さらに内容が真実である場合は違法ではなくなるとした判例があります(最高裁昭和41年6月23日判決)。
ただし、これが実際に違法な名誉毀損になるかどうかは、会社がご相談者の方を特定し、損害賠償請求訴訟などを提起した際、最終的には裁判所で決せられることになります。その場合、ある日突然、発信者情報開示請求に関する連絡がプロバイダや携帯電話会社から来たり、裁判所から訴状が届くということになります。そして訴訟が提起された場合は、投稿内容について先ほど述べた違法性を争わなければなりません。
訴訟は本人でも行うことはできますが、実際のところ法的な主張を事実分析や判例・裁判例に基づいて争うことになりますし、この種の問題は複雑化することも多いです。そのため、仮に訴訟となった場合は弁護士への依頼が必要になる可能性が高いと思われます。
法的紛争になった際に応訴する覚悟が必要
昨今、真実に基づかない心ない投稿なども増えた結果、会社が弁護士に依頼して悪意ある口コミや誹謗中傷に対して毅然と法的対応をするということも増えてきており、実際に私のところにも企業から多くの相談が寄せられています。
「どこまでが真実で、どこからが誹謗中傷か」という判断も、一律にできる簡単なものではありません。
そのため、「自分はすべて真実だと確信しているから何もしてこないだろう」と考えることは危険です。このような投稿をする際は、しっかりと真実性などに関する証拠をそろえ、仮に法的紛争になったとしても応訴するなどの対応が必要になることを認識して頂く必要があります。
表現の自由は民主主義社会を支える重要な価値で、日本国憲法で手厚く保障されています。表現の自由が保障されていなければ、萎縮的効果を生み、社会内での議論は起こらなくなってしまうからです。
しかし、インターネットの普及に伴って表現行為が手軽にできるようになった現代社会においては、どのように表現の自由を使うのかがとても重要になっています。