注目されるワーキングメモリは脳の機能
■処理能力を高めるワーキングメモリ
コンビニエンスストアに行って次のものを買いました。全部でいくらになるか暗算してください。
ミネラルウォーター 100円
雑誌 730円
サンドイッチ 310円
乾電池 500円
のど飴 210円
いきなり暗算などさせてしまって、申し訳ありません。ちなみに、合計は1850円ですが、合っていましたか? しかし、これは皆さんの計算力を試す目的で解いていただいたわけではありません。脳の「ワーキングメモリ」という能力とはこういうものだと実感していただくことが目的です。
暗算ですからメモは取れず、頭の中で計算するしかありません。つまり、次々と値段を足していくためには、途中の計算結果を頭の中に保持しなければならないというわけです。このように、思考するときに参考情報をメモ帳のように留めておく脳の機能のことを、ワーキングメモリ、日本語では「作業記憶」といいます。
ワーキングメモリも記憶の種類には違いないですが、一般的によく知られている記憶とは、機能が少し異なります。それは、ワーキングメモリが働く場所が、一般的な記憶が行われる場所とは違うことからもわかります。
その場所の1つは、思考や創造性といったものをコントロールする「前頭葉」というエリアです。このことから、「覚える」というよりも、どちらかというと「考える」ときに利用される能力ということです。ワーキングメモリは、近年注目されている脳の機能です。頭の回転の速さ、課題に対する処理能力などに大きく関わってきます。
例えば、仕事においてある課題に直面したとします。効率よく処理するためには、すでに自分が持っているノウハウを活用することが効率的であり、合理的です。このような状況が、まさにワーキングメモリの活躍する場面なのです。
課題を処理するのに必要な情報を、記憶のデータベースから検索を掛けて見つけ出し、最適な情報を引っ張り出して脳のメモ帳に記述します。その情報を参照しながら目の前の課題を処理することで、スムーズに作業を進めることができるようになるというわけです。
ワーキングメモリが働いている状態をよりわかりやすくするために、テレビなどで落語家さんたちが行う「大喜利」を例にあげてみます。落語家の皆さんは、司会者からのお題に対して素早く的確な答えを返します。このとき、落語家の皆さんの頭の中では、ワーキングメモリにスイッチが入り、お題に関する情報を記憶の中から猛スピードで探し出し、その情報の中から最適解を選び出すことが行われているのです。