一瞬一瞬が楽しめる認知症の13年間
物忘れがひどくなっても、機嫌よく生活されている方のほうが多いのです。
ある男性が、コロナ禍で会えなかった93歳の祖父に、結婚した妻を紹介するために3年ぶりで実家に行ったそうです。
祖父は認知症で、自分の子どもの名前も忘れています。何年も会っていない孫など覚えているはずもありません。でも、会えば「そうか、こんな立派な孫がいたんだ。俺も大したものだ」とか、孫の妻を見て「きれいだな。俺ももう少し若かったら再婚できたのに」と言って、まわりを笑わせたそうです。
このおじいさんは、相撲や漫才が好きでよくテレビを見て、応援して笑っていますが、すぐに忘れてしまいます。でも、一瞬一瞬楽しめるのはいいですね。
おじいさんが認知症と診断されたのは80歳のときですが、一年前までは畑仕事をしていたそうです。
つまり、発症から13年も経っていて、それまでの12年間は普通に暮らしていたことになります。この一年間だって、いたって機嫌のいいおじいちゃんなのです。認知症はこういった経過をたどることのほうが多いので、過度に心配することはありません。
■いっきに滑り台のようにおりるか、鼻歌でも歌いながら気長におりていくか
70代はようやく世間の目や競争や家族のために働くことから解放されるときです。先に書いたように、80歳以降は要介護認定を受ける方も増えていきますが、70代はまだ動けます。
とはいっても、人間には寿命があります。70代はそろそろ下り坂に差し掛かったところです。
ここはいっきに滑り台のようにおりていくか、鼻歌でも歌いながら寄り道して気長におりていくか。私としては、70代という時代が、そのどちらの80代、90代を迎えるかを決める大事な時間だと考えます。