(※写真はイメージです/PIXTA)

ビジネスで成功し、人気エリアに4階建てのビルを建てた父が急逝。しかし、相続人は父の後妻と、後妻と養子縁組をしていない先妻の子4人という複雑なもの。遺産は人気エリアに建つビル1棟のみという状況で、どうやって遺産を分割すればいいのでしょうか。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。

ビジネスで財を成し、ビルを建てた父親

今回の相談者は、40代会社員の三上さんです。資産家の父親が亡くなり、遺産分割で揉めているため相談に乗ってほしいと、筆者のもとに訪れました。

 

三上さんは4人きょうだいの末っ子ですが、生母は20年以上前に亡くなり、数年後に父親が再婚しています。後妻には子どもがいません。

 

父親は家電リサイクル業で成功し、4階建ての店舗兼自宅のビルを建てています。父親が現役のころは、1階が父親の経営する店、2階と3階がテナントへの貸出、4階が自宅スペースでした。いまは1階も貸し出し、3フロアから家賃収入を得ている状態です。

開発が進んで人気エリアに…資産価値も上昇

「父が土地を購入したときはまだ地域も開発途中で、あちこちに造成地が残っていたのです、大型商業施設ができ、住宅街もきれいに整備されて、人気のエリアになったのです」

 

父親の建てたビルは築30年を超えていますが、立地がいいため常に満室で、賃貸事業として安定しています。

 

「しかし、いくら人気があるとはいっても、そろそろ修繕が必要です。エントランスや廊下など共用部分の清掃は、これまでビルに住んでいた両親がやっていたのですが、義母だけに任せっぱなしで大丈夫なのか、不安があります」

父は遺言書を残さず、後妻との養子縁組はしないまま

三上さんの父親の財産は約4億円で、そのほとんどがビルの建物と土地によるものです。相続税の申告が必要で、かつ、先妻の子4人と後妻という相続人関係なのですが、父親は遺言書を残しませんでした。

 

「私たちきょうだいは4人とも、進学や就職のために10代から20代前半のうちに家を出ました。後妻である義母は父より一回り以上若く、また、同居経験があるのは末っ子の私だけです。それに、生前の父と相続について話したこともありませんでした」

 

父親と後妻が結婚したとき、三上さんきょうだいは成人しているか、成人に近い年齢だったため、後妻と養子縁組しませんでした。

 

今回の相続において、相続人は亡き父親の配偶者である後妻と、三上さんきょうだい4人の合計5人です。しかし、将来後妻が亡くなったとき、実子のいない後妻の相続人は、三上さんきょうだいではなく、後妻のきょうだいとなるのです。

 

「義母は3人きょうだいの長女だと聞いています。義母が父の財産を半分相続するのは仕方ないにしても、義母が亡くなったら、父が築いた財産は、会ったこともない義母のきょうだいのものになってしまう…」

 

三上さんの打ち合わせに参加していた筆者と弁護士は、三上さんきょうだいと後妻との養子縁組を速やかに行うよう勧めました。

法定割合で相続&売却でお金を分けるのが「最も簡単」

養子縁組することを前提としつつ、今回の遺産分割の方法について、いくつかシミュレーションを行いました。

 

相続人とビルの状態を考えると、いちばん問題が少ないと考えられるのは「法定割合で相続し、ビルを売却してお金で分けてしまう方法」です。ひとりでビルに暮らす後妻は、これからの生活を考えてケア付きの高齢者住宅に住み替えることで、生活の負担や将来の不安が軽減できます。

 

実務的にはビルは後妻が相続し、売却した代金で三上さんきょうだいに代償金を払うかたちです。譲渡税はかかりますが、二次相続の相続税が減らせるというメリットがあります。

後妻との話し合い以前に、きょうだい間で意見が割れ…

筆者と弁護士の提案を持ち帰った三上さんでしたが、わずか数日後、憔悴した様子でまた筆者の事務所を訪れました。

 

相続人で話し合いの場を持ったそうなのですが、後妻の希望は、ビルを相続して今後も住み続け、最終的に三上さんきょうだいに遺贈したいというものだそうです。

 

長男と長女は速やかな売却と分割を希望しています。二女と三上さんは後妻に半分相続してもらったうえ、子どもの権利も登記して共有として、家賃も分け合うことを提案したそうです。

 

「義母との話し合い以前に、きょうだい間でも意見のすり合わせが難しくて…。もうゲッソリです」

 

もし義母の意見を通したとしても、民事信託にするのか、任意後見をどうするのか、遺贈の遺言書は…と、必要な手続きがたくさんあり、それ自体方針が見えません。キーパーソンともいうべき後妻も対応は頑なで、三上さんきょうだいの案に歩み寄るそぶりもありません。

ビルは相続人全員の「共有状態」に

このようなケースはまさに、父親が遺言書を用意し、遺言執行者を決め、不安を残さないよう方法を決めておくべき案件です。しかし、このままでは後妻ときょうだい間はおろか、きょうだい同士の意見も割れた状態です。もしまとまらなければ、家庭裁判所で調停といった事態にもなりかねません。

 

「どうして父は遺言書を残さなかったのでしょう…」

 

三上さんはがっくりと肩を落とし、うつむきました。

 

そこでアドバイスしたのは、ずっと住み続けたいとという後妻の希望を優先して「配偶者居住権」として相続しもらい、所有権は子ども4人で共有すること、後妻が亡くなったら売却して等分に分けるという案です。

 

こうすることで、後妻は最後まで自宅に住み続けることができ、「後妻が亡くなったらきょうだい4人が売却して等分にする」とルール決めをして合意を得ておくことでトラブルを防げます。

 

これにより、亡き父親が遺したビルは、いままでどおりに後妻が住み、後妻が亡くなっても不動産は後妻のきょうだいのものになることもありません。

 

三上さんがこの案を持ち帰り、皆で相談した結果、それぞれが歩み寄って合意ができたということです。

 

「父が遺してくれた財産を、すぐに分けるようにしたかったのですが、長年父親の世話をしてくれた後妻への感謝を込めて希望を優先しました」

 

三上さんからそのような連絡があり、ほっとしたところです。

 

相続財産をどのように活用するのかは、親族間で考えを共有し、整理しておくことが大切です。今回のような価値ある不動産も1つでは複数の相続人では分けられないことになります。早めに分けやすくしておく対策が必要になります。

 

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

 

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本記事は、株式会社夢相続のサイト掲載された事例を転載・再編集したものです。

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