(※写真はイメージです/PIXTA)

長年夫の両親と敷地内同居をしていたある女性。舅が亡くなり、姑が倒れ、相続が現実味を帯びてきましたが、自宅敷地は姑の所有であり、相続人の夫は「きょうだい全員で分ければいい」となげやりな発言を繰り返します。じつは、女性がやきもきするには理由がありました。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。

夫両親の自宅敷地に、夫名義の家を建築

今回の相談者は、50代の専業主婦、鈴木さんです。将来の義母の相続時にトラブルが起こるのではないかと懸念していると、筆者のところへ相談に来られました。

 

鈴木さんの夫は3人きょうだいの長男です。鈴木さんが結婚したタイミングで、夫の実家の敷地に別棟で家を建てました。その後は2人の子どもに恵まれ、問題なく暮らしてきたといいます。

 

夫には妹と弟がいますが、妹は他県に嫁いで家を離れ、弟は仕事の関係で飛行機の距離に暮らしています。

 

「義父は数年前に亡くなりました。その際に義母が全財産を相続したため、私の自宅の建物は夫名義ですが、土地は義母名義となりました」

義母の財産は「預貯金+自宅不動産」だが…

そして今年の上旬、問題が発生しました。義母が脳梗塞を発症して介護が必要になったのです。

 

「義母が倒れたとき、私たち夫婦で介護する心積もりでした。私も長男に嫁いで同じ敷地に暮らしている以上、覚悟をしていたのです。ところが義母は、〈娘のほうがいい〉といいって、他県に住む妹夫婦のところへ引き取られていったのです」

 

義母はすでに80代で、いつ相続になってもおかしくありません。

 

「夫から聞きましたが、義母の財産は自宅と預金だけだそうです。ただ、預金はそこまで多くないらしくて…」

 

今後、介護のために預金が減っていけば、相続財産は不動産のみになる可能性もあります。

 

義母が保有する土地には、義母の暮らしていた実家と、鈴木さん家族が住む夫名義の家の2件が建っていますが、奥行きのある敷地で分割は難しい形状です。

 

「こんな状況でも夫はのんきで、〈財産はきょうだいで三等分すればいいじゃないか〉というだけなんです。夫は、預貯金が残っていなければ不動産を売ればいいと考えているようですが、それでは夫名義のいまの家に住めなくなるのではと、不安で不安で…」

義母名義の土地に建つ家でも、出ていく必要はない

義母の財産は実家と敷地なので、夫名義の建物は義母の相続財産ではありません。そのため、義母が亡くなったからといって出ていく必要はないのですが、土地はすぐに夫名義にすることはできません。

 

実家の相続について、妹・弟と話し合って相続する人を決めることになりますが、妹も弟も生活拠点は他県のうえ、それぞれ自宅を保有しているので、実家の土地をほしがることはないだろうと、鈴木さんは考えています。

「夫は土地・妹弟は現金」が現実的な遺産配分

現実的に考えると、鈴木さんの夫が土地をすべて相続し、妹・弟と共有しないほうが問題は起こりにくいといえます。

 

そうなれば、2人は現金を相続することになりますが、不足分は夫が代償金として支払う必要があるため、いまから金額の目安を話し合っておくことが必要でしょう。

 

もし代償金を用意できない場合は「売却して遺産分割」になるかもしれません。

妻が不動産を手放したくない理由とは?

鈴木さんは、筆者と司法書士の説明を黙って聞いていましたが、本音を漏らしました。

 

「私は、空き家になった義母の自宅を壊して、娘夫婦の家を建てたいと思っているのです。だから、あの土地を売却してほしくないのです…」

 

そういう希望があるなら、長男である鈴木さんの夫が、妹・弟と合意を得ておくことがなお重要です。計画的な相続のため、なによりまず、きょうだいで話し合いをしてもらうよう、夫に伝えた方がいいと提案しました。

 

「義母の貯金額ですが、夫が把握しているのは義父からの相続分のみのようです。それ以外にいくらぐらい持っているかはわかりませんが、そうはいっても、義母も専業主婦ですから…。もし、うちの貯金で夫のきょうだいに代償金が払えない場合は、娘婿に協力してもらって、ローンを組むことも考えたいと思います」

 

鈴木さんはそういうと頭を下げ、筆者の事務所をあとにしました。

 

親名義の土地に家を建てているケースは多く、親の相続時に揉める原因となりがちです。暗黙の了解で遺産分割ができるケースもあるのですが、本来であれば、母親に遺言書を作成してもらい、争いを回避できるよう準備しておけば万全だったといえるでしょう。

 

鈴木さんの夫とそのきょうだいの話し合いがどのような着地となるかはまだ分かりませんが、妹・弟に納得してもらえる代償金を用意して、鈴木さんの希望通り、円満に自宅敷地を相続し、娘夫婦との同居が実現できることを願っています。

 

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

 

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本記事は、株式会社夢相続のサイト掲載された事例を転載・再編集したものです。

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