「売り上げ確保しなければ…」地方の小さなストローメーカー、あがくほど沈む〈自社開発地獄〉

「売り上げ確保しなければ…」地方の小さなストローメーカー、あがくほど沈む〈自社開発地獄〉

長年にわたる超大手企業との取引に安住し、営業部すら存在しなかったあるストローメーカー。契約が切れることになり、自立のための新商品開発に乗り出しますが、撃沈に次ぐ撃沈で、思い通りの成果が得られません。自立のために焦って自社で企画を考えることが、負のスパイラルを招いてしまったのです。

「缶用ストロー」の取り組みが失敗に終わったワケ

自立のためにあせって何かしようと自社で企画を考えると失敗に陥りやすくなります。

 

シバセ工業での実際の失敗例を紹介しておきます。自社企画のストロー生産に向けてまず考えたのが、ジャバラの技術を活かす缶用のストローの開発でした。これは、ジャバラが2カ所あるストローで、缶ジュースなどの缶の上に取り付けることを想定したものでした。

 

シバセ工業資料より作成
[図表]ジャバラが2ヵ所ある缶用ストロー シバセ工業資料より作成

 

缶ジュースは缶に直接口を付けて飲みますが、誰が触ったか分からないため衛生面で不安があります。実際に日本と比べて衛生管理が行き届いていない東南アジアでは、感染症対策などの目的から缶ビールでもストローで飲んでいます。そこから着想を得たシバセ工業では、

 

「日本においても、直接口を付けるよりストローで飲んだほうが衛生的ではないか」

「丸い缶の横にストローを付けるのは難しいが、ジャバラを2カ所にすれば三角形に折り曲げることができ、缶の上部に付けられる」

 

などの案が生まれて、ジャバラ部分が2カ所ある缶用ストローの開発が始まったのです。

 

これは市場にない新しい製品のため、まずは試作品を作って飲料メーカーなどに提案する必要がありました。そのために、シバセ工業は3000万円かけて缶用ストローを作る機械を開発しました。

 

しかし、缶用ストローの取り組みは失敗に終わりました。コロナ禍であれば感染症対策として注目されたかもしれませんが、当時はこの案を評価してくれる会社がなく、製品化に至らなかったのです。評価されなかった理由はコストアップになること、流通している缶ジュースなどの量に対してストローの生産数量を対応するには莫大な投資になること、缶の上部に固定するうまい方法がないことなどです。

 

紙パックでは飲むのにストローが必要ですが、缶はビンと同じくそのまま飲めるのでストローは必要ないのかもしれません。せっかく作った機械も一度も量産に使うことなく廃棄されることになりました。

 

もう一つ、グリコの仕事をしていたときの包装機が仕事がなくなり使われずに空いていたのでこれを使うことを考えます。紙で包装されたストローは一般的に、包装に印刷を施すことでお店の名前をアピールします。この機械もグリコの社名やロゴ、製品名などを印刷してブランドイメージを高めていました。

 

一般的な紙の包装は、ゴム版を使った活版印刷で、1色または2色の印刷しかできませんが、ストロー包装機に印刷の仕組みが組み込まれていて包装しながら印刷も同時にするので、ゴム版とインクを切り替えることで、簡単に小ロット印刷ができます。個人経営の喫茶店など小ロットでの印刷が安くできるので、ストローメーカーの主力製品でした。

 

一方、グリコ向けで使われていた包装機は、包装フィルムにグラビア印刷によるカラー印刷ができるので、写真などの印刷も可能で高級ブランドのイメージづくりにも役立ちます。欠点は、印刷版が高価で版代の費用がかかることや、大量に包装用フィルムに印刷する必要があることで、小ロット生産には向かないということです。それでも、印刷の版の中に複数の柄を作って、一度に複数の製品を作れるようにすることで多品種小ロット生産ができるようにしました。

 

中のストローは同じですが、包装に印刷することで宣伝効果を狙ったものです。車の写真や車名を印刷して車のディーラーにノベルティ用として使ってもらったり、銀行など販促用の粗品として配ったりするときに使ってもらったりしました。また、自社製品として販売するためにデザインを広く一般の人に募集したときは子どもからプロまでたくさんの応募があり、多くのかわいいデザインが入った製品ができました。製品名は「ファンシーストロー」で商標も取得しました。

 

しかし、景気が良いときなら製品を売るために販促にもお金をかけますが、デフレの時代では販促用の粗品なども少なくなり、また自社製品として販売するにしても、包装で価格が高くなりストローの用途としても飲食店で売れない製品になってしまいました。

 

これらの経験を経て、シバセ工業は自社企画を考えることの難しさを痛感しました。自分たちが良いと思った案が、必ずしも市場のニーズとマッチするとは限らないと理解したのです。

 

井上 善海

法政大学 教授

 

 

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井上 善海

幻冬舎メディアコンサルティング

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