ニッチ市場に目を向けた、多品種小ロット生産の戦略へ
グリコからの注文がなくなると分かっている以上、今後は自分たちで顧客を見つけ出して、自分たちで考えて作っていかなければなりません。技術力があれば一般的に普及しているもの以外にも、多様なストローが作れるようになります。一般的なストローと比べて規格外のストローは注文量が少なくなりますが、たとえ小口であってもとにかく新しい顧客を増やすことが先決でした。
そして2007年頃、シバセ工業はどこで誰に何を売って稼ぐかという方針を明確に定めました。大手の下請けとしていわれたとおりのものを作るのではなく、技術力を活かしてニッチ市場に目を向けた、多品種小ロット生産の戦略を実行していくことになったのです。
多品種小ロット生産を目指すということは、大量発注・大量生産の市場は狙わないということです。
ストロー市場は9割が汎用ストローです。ここがお金が動いているメインストリームのため、多くの会社がこの9割のなかで事業をしたいと考えますが、汎用ストローの市場は輸入ストローが圧倒的に有利です。価格勝負・体力勝負では輸入ストローに勝てないと考えたシバセ工業は、残りの1割である多品種小ロット生産の市場に目を向けました。
多品種小ロット生産の市場で競合となり得るのは国産ストローのメーカーですが、この分野は全体的に衰退傾向のため、競合はほとんど存在しません。つまり、レッドオーシャンである汎用ストローに対して、多品種小ロット生産はブルーオーシャン化している市場だということです。この1割の市場に業績回復の可能性があると考えたのです。この市場を狙う目的は、競合がいないことで価格をある程度コントロールできるので、利益を出せることです。
レッドオーシャンの市場で競合が多数いる場合は、価格を安くしなければ入れず薄利多売になってしまいます。場合によっては作れども儲からずになってしまいます。一方競合のいないブルーオーシャンの市場では、価格交渉は強気に出られるので、利益も出しやすくなります。営業に対しては次のような言葉で方針を伝えています。
「大口を狙わず小口を集める」
「100万円の仕事を1件取るより、1万円の仕事を100件取るべし」
「ホームランを狙うな。バントヒットでも試合は勝てる」
「種を蒔けば、やがて芽が出て木に育つ」
「100社の小さな取引先のなかから必ず1社くらいは大きな取引に発展する」
このように営業方針を早いうちに明確化したのは賢明な判断だったといえます。作るものや顧客のターゲット像が曖昧な状態では、企業はあらゆる事業に着手しがちです。そうすると人やお金などのリソースが分散し、専門性を高めることができなくなってしまいます。
逆に、方針が明確で成長に向けた将来の構想がある企業は、無駄な部分にはリソースを割かないため、売上も利益も伸びていくのです。
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