ある中小企業のストローメーカーは、長年にわたって大手企業1社との取引に依存し、営業部門すら持ちませんでした。しかし、時代の流れとともに状況が変わり、取引数が激減。顧客の新規開拓を余儀なくされます。見よう見まねで営業を展開しますが…。

既存顧客がゼロ=しがらみのなさが「チャンス」に

シバセ工業は、多品種小ロット生産戦略を掲げたと同時に、営業面の課題解決にも取り組み始めました。というのも、グリコの下請けをしているときは営業する必要がないため、シバセ工業には営業部門がありませんでした。

 

しかし、飲料用ストローの新たな顧客を開拓していくためには営業が不可欠です。既存顧客がゼロで、新規顧客の当てもないという状態はかなり不利な状態ですが、見方を変えればどこを攻めてもよいということです。業界や業態を問わずどんな会社でも顧客にできる可能性があるというのは、同業他社にはない強みでした。

 

日本のストローメーカーの多くは問屋や商社などの飲食店向けの卸売会社との取引を中心としていました。

 

日本がデフレになり輸入ストローが多く日本に入ってくるようになると、安いストローを求めてまずはストローメーカーが輸入ストローを扱うようになります。輸入ストローを自社のブランドで販売することもできるし、ストローを仕入れて包装だけ自社ですることで日本製として販売することもできます。

 

卸売会社はメーカーを通して輸入ストローを販売するようになりました。次の段階では卸売会社も仕入れるのは安いほうがよいのでメーカーを外して自らストローを輸入するようになります。そうなるとストローメーカーを通さなくなるため、メーカーへの注文は少なくなります。

 

しかし、特殊なものや短納期の時は輸入ストローでは対応できないため卸売会社も日本のメーカーを頼ります。

 

日本のストローメーカーは、卸売会社に注文を頼ってきたため、自ら営業する力もノウハウもなく、かといって今までの商流を壊す勇気もありません。今まで取引してきた卸売会社などに対する遠慮があるので、新しい取引先を開拓することもできません。

 

一方、シバセ工業の場合はグリコ以外に取引先がありませんでしたので、自由に営業して新規顧客開拓ができるという状況にあり、自力回復を目指すうえではピンチですが、しがらみがないのは逆にチャンスでもあります。

 

そこでシバセ工業は2000年に、営業の専任担当者を採用します。シバセ工業と付き合いがあったストローの包装フィルムを作っている会社に勤めていた営業担当者で、その人の退職を聞いた責任者がすぐに連絡を取り、営業として採用したのです。

 

責任者は営業のことはよく分からなかったため「とにかく新規顧客を探してほしい」という方針だけ伝えて、具体的な営業活動の内容は営業のプロに任せました。

 

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井上 善海

幻冬舎メディアコンサルティング

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