(※写真はイメージです/PIXTA)

誰でも憂うつになることはあるでしょう。しかし問題は、憂うつな状態が続いていて、その原因が本人にも分からないときです。自分でも意識することのできない心の奥底、すなわち「無意識」を探っていくと、過去のつらい記憶や体験から抑え込んでしまっていた自分の本来の感情が見えてきます。多くの人が経験する感情の奥には、どのような真実が隠されていたのでしょうか。精神科医・庄司剛氏が解説します。※本稿で紹介するケースは、個人が特定されないように大幅に変更したり、何人かのエピソードを組み合わせたりしています。

「憂うつ」を感じるケースと、その無意識的な原因

気分が落ち込んだり塞ぎ込んでしまったりする状態が「憂うつ」ですが、誰しも日常でもよく経験することです。例えば、朝起きたら雨が降っていたり、苦手な人とどうしても仕事で会わなければならなかったりするときなど、憂うつな気分になります。もちろん、そういう人ばかりではありませんが、誰にでも憂うつになるシチュエーションはあるものです。

 

問題は、憂うつな状態が続いていて、その原因が本人にも分からないときです。その背景にどのような真実が潜んでいるのかを知る必要があります。

CASE:毎日同じことの繰り返しで閉塞感がある

■アニメや音楽が好き。無理に人と関わる必要もないと開き直っていた

もともと内向的で人間関係が苦手というXさんは友達が少なく、声をかけられても上手に会話ができないために相手が退屈するのではないかと不安になってさらに話しづらくなるのでした。

 

自分なんて相手にとってなにも面白いところもないし、誰も興味をもつ人なんかいないという確信があったし、そういう関わりを繰り返すことでそれを確かめているようでした。

 

それは社会人になってからも同様でしたが、人とのコミュニケーションが下手なだけで、とても賢く仕事はきちんとできる女性でしたので、職場で特に問題となることはなかったそうです。

 

ただ、周囲からは“一人が好きな人”と思われて親しい友達などはおらずプライベートで人と会ったり遊びに行ったりすることは滅多にありません。それでも休日は、自分の好きなアニメを観たり音楽を聴いたりすることが楽しみでしたので、無理に人と関わる必要はないと開き直っていました。

 

けれどもあるとき、仕事上で難しい局面が続いたことがきっかけとなり、ストレスと疲労がたまって趣味も楽しむ余裕を失ってしまいました。幸いその困難な期間は数ヵ月程度で、そののち仕事的には落ち着いたのですが、なぜかまた好きなアニメや音楽を楽しもうという気が起きないことに気がつきました。ジムに入会したりカルチャースクールに登録したりしましたが、結局人と関わることが不安でほとんど参加できませんでした。

 

そして、仕事と生活は淡々と続けていましたが、明日も明後日も、1年後も2年後も、同じ生活を繰り返している自分を想像すると「なんのために生きているのか」と自分に価値を見出せなくなり、閉塞感からしだいに憂うつな気分になっていきました。憂うつな気分の治療を求めて私の勤めるクリニックを受診したのですが、なんで好きなアニメも楽しめなくなってしまったのか、なぜ人とうまく関われないのか、不思議に思い掘り下げて考えてみたいということでした。

 

■Xさんには「内向的で人間関係が苦手」になった“きっかけ”があった

Xさんはうろ覚えだったのですが、5歳上の姉から聞かされた話では、4歳のころに父親が大病をして大学病院に長期入院をしたそうです。その際、母親は病院に通わなければなりませんので、学校がある姉だけが母親と家に残り、Xさんの面倒は見られないという理由から隣県の親戚に預けられたということでした。

 

姉が言うには、親戚に預けられる前のXさんは明るくて愛嬌があり、近所の人にもかわいがられていたそうです。ところが、親戚の家から帰ってくるとまるで別人で、口数の少なく感情を表に出さない人見知りの子になっていたということでした。

 

Xさんを親戚に預けることを知った近所の人たちは、「うちで預かるから手元に置いておいたほうが良い」と言ってくれたそうです。幼い子どもに親戚と他人の区別がつくわけがなく、毎日会っている近所の人のほうがXさんにとっては安心できる身近な存在だからです。“遠くの親戚より近くの他人”というように、環境は変えないほうが良いといって助けてくれようとしたのです。

 

しかし母親は「人様に迷惑をかけるわけにはいかない」と、Xさんを親戚に預けたのですが、それによってXさんの性格が変わってしまったことで、その後もずっと後悔していたということでした。どうやら母親の心にも傷を残してしまったようです。

 

4歳のXさんは、姉は母親と一緒にいて、自分だけが知らない人の家に行かされたことに対して、「最も信頼できる大好きな母親に自分は捨てられた」と幼心に感じたのかもしれません。

 

実際私と話しているとき、目にいっぱい涙をためていたのです。しかしXさん自身も「なんで涙が出てくるのだろう」と分からないようでした。状況からは母親に見捨てられたように感じたのだろうと知的に理解することができても、そんなふうに思ったことはまったく覚えていないし、実感はないのです。ただ、感情だけがつらい、寂しいと感じられていました。

 

Xさん自身は特にそのことがきっかけで人と関わることに不安を感じるようになったとは思っていなかったのですが、治療者からも見捨てられる不安を感じていることや、治療者も自分に興味などもってくれないだろうと最初から疑いもなく信じていることが徐々に明らかになってきました。

 

Xさんは母親を恨んでいるというような感情は意識的にはもっていませんでしたが、他人に深い諦めを抱えてきたといえます。

 

 

庄司 剛

北参道こころの診療所 院長

 

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※本連載は、庄司剛氏の著書『知らない自分に出会う精神分析の世界』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

知らない自分に出会う 精神分析の世界

知らない自分に出会う 精神分析の世界

庄司 剛

幻冬舎メディアコンサルティング

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