【死亡フラグ】ホラー映画で「いちゃつくカップル」が必ず殺される“深いワケ”(精神科医が解説) (※写真はイメージです/PIXTA)

ホラー映画では、調子に乗っている若者、特に「いちゃつくカップル」は必ず殺されるのがセオリーです。もはやテンプレートともいうべき展開ですが、この描写には何の意味があるのでしょうか? ホラー映画の「恐怖」が表すものとは何か。精神科医・庄司剛氏が、フロイトの精神分析学を基に解説します。

ホラー映画の「恐怖」が表しているもの

ホラー映画は文字通り怖がらせることを一つの目的としたエンターテインメント、いわゆるジャンル映画ですが、従来からこの種のジャンル映画はターゲット層である若者特有の不安、恐怖に共感を呼ぶものが多いということが指摘されています。

 

70〜80年代に流行したいわゆるスラッシャーホラーと呼ばれる映画「13日の金曜日」「ハロウィーン」「エルム街の悪夢」などでは、いわゆるフラグと呼ばれるセオリーがあって、調子に乗っている若者、特に性的な行為をしている者たちは必ず殺されます。

 

これはどうしてかというと、こういうエンターテインメント映画が多くの人に喜ばれるためには、そのターゲットになる人たちに共通のなんらかの感情に訴えるものが必要となるためです。先に述べた「お定まり」のパターンがなにを表しているかというと、それは性的な行為をしたら殺されるのではないかという迫害的な罪悪感です。それがジェイソンなどのモンスターに象徴され、人々の投影を引き受けやすい構造になっています。

「性的なもの=タブー」を犯すという罪悪感・恐怖感

2014年に話題になった低予算ホラー映画「It Follows」は公開当初さまざまな解釈が生まれ、議論になったものですが、この映画も前述したような性的な行為、感情に対する強い罪悪感、恐怖感を表現していると解釈することが可能です。

 

あらすじ:主人公は19歳の女性ジェイ。ジェイは最近知り合った男性ヒューとデートに出かける。二人はセックスをするのだがそのあとでジェイはヒューに麻酔をかけられ車椅子に縛られて目覚める。ヒューはなにかが彼女を追ってくることになるとジェイに警告した。それはヒューがもっていた「なにか」がセックスによってジェイに受け渡されたことによるものだった。「それ」はいろいろな形で現れる。知らない人であったり愛した人であったりする。「それ」から逃れる唯一の方法は誰か別の人とセックスをすることによって「それ」を受け渡すことだ。また「それ」がジェイを殺すと「それ」は彼のところに戻ってきてしまうとヒューは説明した。その後ヒューはジェイを彼女の自宅前に放置し、いなくなってしまう。そのあとからジェイは不気味な人物が自分に向かってゆっくりと近づいてくるのに気づく。最初は学校で授業中、窓の外を見ると寝間着のままの老婆が遠くから近づいてくる。明らかに彼女にまっすぐ向かってくるが、それはほかの誰にも見えない。ジェイは逃げるが、「それ」は形を変えて追いかけてくる。ジェイは妹や友人たちとともに逃げ、「それ」と立ち向かおうとする。

 

――映画のなかで「それ」は“It”としか呼ばれず、名前はありません。これは“Id”(イド)を指しているといえるでしょう。(“Id”はフロイトが使ったドイツ語の“Es”の訳ですが、“Es”は人ではない「もの」に対する代名詞で英語の“It”にあたります。)この映画における“It”はフロイトの「イド」についての説明そのものであるかのようです。以下にフロイトによる「イド」の説明を引用します(※)。

 

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それはエネルギーに満ち、本能からそれに到達する。しかしそれは組織を持たず、集合的な意志も生み出さない。ただ快楽原則の習慣に従う本能的な要求を満足させることのみを追い求める。(1933, New Introductory Lectures on Psychoanalysis, p.92)

 

※ The Id follows: It Follows (2014) and the existential crisis of adolescent sexuality; Joseph Barbera; 2019; The International Journal of 393-404

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性的な欲動を表している“It”は性的な接触を通して引き寄せられ、“It”を阻止する方法はほかの誰かとセックスをして「渡す」こと、つまり恐怖の対象である性的欲望を実行し解放することだけなのです。しかしこの方法では完全に“It”を消し去ることはできず、“It”が戻ってくる可能性が少し小さくなるか、少なくとも戻ってくるのを一時的に遅らせるだけだといえます。

 

 

庄司 剛

北参道こころの診療所 院長

 

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    北参道こころの診療所 院長 

    1999年に筑波大学医学専門学群卒業後、東京大学医学部附属病院心療内科、長谷川病院精神科を経て2008年~2013年までロンドン、タビストッククリニックに留学。

    帰国後、心の杜・新宿クリニックに在籍し、2021年より医療法人イプシロン北参道こころの診療所に勤務。

    <所属学会>
    日本精神分析学会
    日本精神分析的精神医学会
    日本心身医学会
    日本精神分析協会訓練生

    <資格>
    精神保健指定医
    BPC(British Psychoanalytic Council) Psychodynamic Psychotherapist
    TSP(The Tavistock Society of Psychotherapist) メンバー

    著者紹介

    連載知らない自分に出会う精神分析の世界

    ※本連載は、庄司剛氏の著書『知らない自分に出会う精神分析の世界』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

    知らない自分に出会う 精神分析の世界

    知らない自分に出会う 精神分析の世界

    庄司 剛

    幻冬舎メディアコンサルティング

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