(※写真はイメージです/PIXTA)

科学啓蒙家のマット・リドレーは、イノベーションを「人間バージョンの自然淘汰」と表現しました。生命が未来を予測し、それに備えて何かを目指して自ら進化するなどということはありません。生物は環境とのランダムな応答のなかで漸進的に変化し、それを自らの体に組み込んで生き延びていくだけです。人間の社会も同じです。次の社会のありようを先読みして、それにフィットするような進化を計画し実行することなど決してできません。不確定な世界の中でイノベーションを起こすには、どうすればよいのでしょうか?

トライアンドエラーできる環境がイノベーションを生む

失敗は恐れる対象ではありません。失敗がなければ成功もないからです。トライアンドエラーに失敗はつきものであり、失敗はあらかじめセットされているといっていいと思います。トライし続けること、それが許される環境があることが重要です。リスクを取り失敗を恐れず、たくさんの選択肢をもってトライアンドエラーを重ねていく。これがあらゆる生命の進化の原動力となっているものであり、不確定性に対する唯一の解なのです。

 

タレブも先の本でこう書いています。「オプションとは私たちを反脆くしてくれるものだ。オプションがあれば、不確実性の負の側面から深刻な害をこうむることなく、不確実性の正の側面から利益を得ることができる」「産業革命のころのイギリスと同じで、アメリカの財産は、一言でいえばリスクテイクとオプション性の使い方にある。アメリカは、合理的に試行錯誤する驚くべき能力をもっている。失敗し、やり直し、また失敗しても、そんなに恥をかくことはない。それと比べて、現代の日本はどうだろう。失敗は恥になる。だから人々は金融や原子力のリスクを絨毯の下に隠そうとする。小さな利益のために、ダイナマイトの上に座ろうとする。朽ちた英雄、つまり“高貴なる敗北”に敬意を払ってきた昔の日本とは、奇妙なくらい対照的だ」(前掲書)

 

不確定な世界のなかで生き延びていくためには、失敗を恐れないトライアンドエラーを積み重ねるしかありません。それがイノベーションを生み、新たな時代をサバイブしていくことにつながります。

 

あらゆるイノベーションが漸進的な進化の積み重ねであり、一人の英雄のひらめきではなく同時的に行われた数多くのトライアンドエラーの積み重ねの結果であったという事実も、このことを証明しています。

 

「反脆さ」とはすなわち選択性を保持し、トライアンドエラーができるということであり、それこそが強さなのだというタレブの指摘は不確定な世界のなかでいかにたくましく生き延びるかということへの答えを示唆しています。そしてトライアンドエラーができる環境こそがイノベーションの源泉になるのです。
 

 

太田 裕朗

早稲田大学ベンチャーズ 共同代表

 

山本 哲也

早稲田大学ベンチャーズ 共同代表

 

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※本連載は、太田裕朗氏・山本哲也氏による共著『イノベーションの不確定性原理 不確定な世界を生き延びるための進化論』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

イノベーションの不確定性原理 不確定な世界を生き延びるための進化論

イノベーションの不確定性原理 不確定な世界を生き延びるための進化論

太田 裕朗
山本 哲也

幻冬舎メディアコンサルティング

イノベーションは一人の天才による発明ではない。 そもそもイノベーションとは何を指しているのか、いつどこで起き、どのようなプロセスをたどるのか。誕生の仕組みをひもといていく。 イノベーションを創出し、不確定な…

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