生き残るには「トライアンドエラー」するしかない
では不確定な世界を生きる私たちの生存戦略とは、どのようなものでしょう。まず明らかなことは、根源的に不確定な環境のなかに生きていることです。未来が予測のつかないものであるなら、シナリオを固定して備えることは極めて危ういといえます。
例えばアフリカのサバンナでライオンに狙われたシマウマが最初から「あの方向」と決めて逃げ出したら、おそらくライオンの群れの罠にかかってしまいます。まず駆け出すしかありません。駆けながら方向を修正していくのが、いちばん生存率が高いのです。
同じことは今普及が進んでいるロボット掃除機にも垣間見ることができます。この家電も、イスの脚にぶつかり段差から落ちそうになりながら試行錯誤を重ね、自分で地図を作り修正しながら行動の精度を高めていきます。古いロボットの概念では、あらかじめすべてを設計し、シナリオを完璧に用意することが必要でした。しかしすべて購入者の室内を予想することなどできません。
また、動作中に何が起こるか、すべてのケースを想定することも不可能です。斬新なこのロボット掃除機は、シナリオをトライアンドエラーにより自分でつくるものに置き替えたのです。
いくら強固でも、ただ一つのプランしかないものは脆い
いかに想定が緻密で対応プランが完璧であっても、未来が確定的に語れない以上その完璧さは見せかけで終わります。入力されるデータに変化があり未来が想定どおりでなかったとき、ただ一つの確定的なプランではまったく機能しません。
このことをアメリカの著名なトレーダーでありリスク工学の専門家でもあるナシーム・ニコラス・タレブは、新たにアンチフラジャイル(antifragile)つまり反脆弱性という概念を用いて説明しました。
タレブは、「フラジャイルつまり脆さあるいは弱さの対義語はロバスト(robust)つまり堅牢さではない。なぜならロバストであるものは実は脆いのであり本当に強いのは『反脆い』または『反脆弱』と呼ぶべきものだ」というのです。
「耐久力のあるものは、衝撃に耐え、現状をキープする。だが、反脆いものは衝撃を糧にする。この性質は、進化、文化、思想、革命、政治体制、技術的イノベーション…など、時とともに変化し続けてきたどんなものにも当てはまる。地球上の種の一つとしての人間の存在でさえ同じだ。…反脆いものはランダム性や不確実性を好む。…反脆いものはある種の間違えさえも歓迎する…反脆さがあれば、私たちは未知に対処し物事を理解しなくても行動することができる」(『反脆弱性ANTIFRAGILE/上・下』望月 衛監訳/千葉敏生訳 ダイヤモンド社)
つまり柔軟性があり、変化を飲み込んで壊れないような反脆いものこそ強いといっているわけです。
生き残るために必要なのはロバストではなくてアンチフラジャイルだというのは、傾聴すべき指摘です。外部環境の予期しないさまざまな変化のなかでたくましく生き延びていくのはランダムに変異し適合していくものだからです。
つまり一つの強固なプランのもとで対応するのではなく、さまざまなオプション、つまり選択性(オプショナリティ)をもち失敗を恐れずトライアンドエラーするものこそ強いのです。