イノベーション創出に“ヒーロー”は不要。イノベーションを生み出す「状態」とは (※写真はイメージです/PIXTA)

イノベーションとは、「試行錯誤の積み重ね」による「漸進的な進化」です。いくら天才的な頭脳の持ち主がいて先進的な技術の種があっても、社会の仕組みが彼らのモチベーションを喚起し、トライアンドエラーへと立ち上がらせるようなものになっていない限りイノベーションは生まれません。今回は、イノベーションを生み出す「るつぼ」について見ていきましょう。

イノベーションは起こそうとして起こるものではない

イノベーションは何かしらのグレードアップが進化として人類の生活様式に組み込まれることです。それまでより効率を高め、何かしら新たな価値があるものである必要があります。そしてそれは不可逆的であり、かつ人類全体に普及するものです。

 

ヒーローは不要です。一人がたまたま優れた変化をして、その一代で活躍し、次代では採用されないというようなものはイノベーションではありません。

 

そもそもイノベーションが起こるのは結果論であって、それが起こる舞台である人間の社会は常に不確定性が取り巻き、何がどのタイミングで採用されるかは予想できません。

 

2000年代初頭に、今日のスマートフォンの普及やアマゾンプライムがビデオオンデマンドサービスを提供しているということまで予見することは不可能でした。ソフトバンクが投資事業にこれだけウエイトをもたせるようになると、10年前に予想した人はいません。

 

テクノロジーの進歩があり、方向性を示すアナリストの分析があり、投資家のさまざまな見通しも示されています。しかし予想は漠然としており、間違っていないように見えますが、将来をずばり言い当てた例など聞いたことがないのです。

 

電気自動車(EV)の普及は誰でも予想できることです。しかし10年後のトヨタ自動車がどうなっているかこれだけ社会評論家や経済評論家がいても予想することはできません。

 

コロナ禍のような社会現象の予想が難しいように、社会におけるイノベーションやそのプレイヤー、新たに生まれる生活様式などは予想できないのです。

安定して反応が進む「るつぼ」がイノベーションを生む

イノベーションに必要なのは不確定性の下で行われる多くのトライアンドエラーであり、その担い手とその受け手です。

 

しかし確たる見通しがないなかでの実践には、簡単に踏み切れるものではありません。多くの人のさまざまなトライアンドエラーを導くためには、制度的な外部環境が必要です。つまり、不確定な道のりを乗り切るように援護してくれる外部環境が求められるのです。

 

社会を動かすのは集団の力であって、一人でできることは限られています。ある技術革新を起こそうとするとき、一人でこっそり研究しているようなフェーズではありません。そのような段階では普及からはほど遠いのです。発明家が増えゴールドラッシュのようにわき返り、そして発明を採用する市民が多く登場するような場合においてはじめて、イノベーションへと続く道が広がっていきます。

 

イギリス産業革命は気体物理などの理解をもった科学者が少なからず存在し、投資する余力のある資本家もいました。さらに新たな技術を採用する事業家も多く存在し製品を買う市民もいたのです。

 

近年のIT革命も同様です。ソフトウエアが書けるエンジニアが大量にいて半導体技術も進展し、関連する電子工学、通信工学などが「部品」としてあふれている「るつぼ」のような状態が生まれています。

 

幸い日本では、ITの成功者が次の成功者を産む連鎖が起こっているようにみえます。グロース上場企業をみても大半がIT企業です。ソフトウエア技術者の推進は一定の成功があったようにみえるし、とにかくやってみようという参加者が多いことは大きな可能性を感じさせます。

 

科学的ブレイクスルーに始まり、制度的な環境(institutional rule)に支えられた多くのトライアンドエラーが包括的な経済(inclusive economy)を形成する――このサイクル、つまり、安定して反応が進む「るつぼ」こそが、イノベーションを生む状況のイメージの中心です。

 

それはあたかも何世代も超新星爆発を経験し、何度も惑星系が再構築されたのちに十分な元素の多様性をもって地球が生まれたのにも似ています。

 

ある反応が起こり、その結果がまた反応を起こし、続いていく。そのためにはある数の参加者がいてそしてその場にとどまり、トライアンドエラーを繰り返していくというある程度の場の密度が必要なのです。

 

 

太田 裕朗

早稲田大学ベンチャーズ 共同代表

 

山本 哲也

早稲田大学ベンチャーズ 共同代表

 

 

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    早稲田大学ベンチャーズ 共同代表 京都大学博士

    京都大学大学院工学研究科航空宇宙工学専攻/助教を経て、カリフォルニア大学サンタバーバラ校にて研究に従事。2010年より、マッキンゼー・アンド・カンパニーに参画。2016年より、ドローン関連スタートアップである株式会社自律制御システム研究所(現社名:株式会社ACSL)に参画、代表取締役社長として2018年東証マザーズ上場(CEO、会長を経て2022年3月退任)。

    2021年、早稲田大学総長室参与(イノベーション戦略)。2022年より、早稲田大学ベンチャーズ(WUV)共同代表。

    著者紹介

    早稲田大学ベンチャーズ 共同代表 

    オックスフォード大学理学部物理学科卒業(MA Oxon)後、1994年に三井物産株式会社入社、日米でベンチャーキャピタル事業に従事。2008年、株式会社東京大学エッジキャピタル(UTEC)参画。2009年、取締役パートナー就任。UTECではIT分野を中心とするシード/アーリーステージ投資を担当したほか、グローバル戦略にも注力。産業用ドローン開発の株式会社ACSLや知能化産業用ロボット開発の株式会社Mujin等の創業期に投資し社外取締役を歴任。Forbes JAPANが日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)の協力のもと、毎年行っている「日本版MIDAS LIST」日本で最も影響力のあるベンチャー投資家ランキング2019年度1位。

    2020年にUTEC退任後、2021年より、オックスフォード大学経営大学院在籍(エグゼクティブMBAオックスフォード・アラムナイ・スカラー)、早稲田大学総長室参与(イノベーション戦略)。2022年より、早稲田大学ベンチャーズ(WUV)共同代表。

    著者紹介

    連載イノベーションの不確定性原理

    ※本連載は、太田裕朗氏、山本哲也氏による共著『イノベーションの不確定性原理 不確定な世界を生き延びるための進化論』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

    イノベーションの不確定性原理 不確定な世界を生き延びるための進化論

    イノベーションの不確定性原理 不確定な世界を生き延びるための進化論

    太田 裕朗
    山本 哲也

    幻冬舎メディアコンサルティング

    イノベーションは一人の天才による発明ではない。 そもそもイノベーションとは何を指しているのか、いつどこで起き、どのようなプロセスをたどるのか。誕生の仕組みをひもといていく。 イノベーションを創出し、不確定な…

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