AIがどれだけ発達しても「大災害やパンデミックは予測不能である」決定的理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

イノベーションは起こそうとして起こるものではありません。必要なのは無数のトライアンドエラーです。その理由の一つとして、生物の進化の原理を例に「なぜ私たちは未来を予測できないのか?」について見ていきましょう。生命が未来を予測し、それに備えて何かを目指して自ら進化するなどということはありません。生物は環境とのランダムな応答のなかで漸進的に変化し、それを自らの体に組み込んで生き延びていくだけです。人間の社会も同じなのです。

私たちは「予測できない世界」を生きている

情報技術やAI(人工知能)を含めた高度な社会、技術の進化につられてすべては想定のなかにあると思い込むのは危険なのです。予測できないという世界こそ私たちが生きる世界であり、すべての創造の源泉でもあるからです。

 

■「カンブリア紀の大爆発」の謎

すべての変化は予測不能であり進化のプロセスは不確定です。

 

約46億年の地球の歴史のなかで、今から約10億年前までは、基本的には単細胞生物しか存在しませんでした。

 

その後に多細胞生物が登場し、現存する動物のほとんどの祖先が約5億4000万年前に始まるカンブリア紀に、しかも地球史的なスケールでは非常に短い500万年ほどの間に一斉に登場したことが化石の研究から明らかになっています。「カンブリア紀の大爆発」と呼ばれるものです。

 

目が5つあるオパビニアや背中に角の生えたハルキゲニアなど、その後絶滅した奇妙な体をもったまるでアニメのキャラクターのような生物も数多く誕生しています。しかしなぜこのようなことが起こったのか、どのような進化や淘汰があったかは分かっていません。

 

最新の研究では「目」をもつ生物が誕生して目の機能を高度に発達させ、それまで存在したことのない強力な捕食者となったことが「カンブリア紀の大爆発」につながったのではないかといわれています。

 

新たな捕食者から逃れ生き延びるために、生物は硬い殻をもったり、擬態したり、光のなかで存在が目立たないようにしたり、土中に潜ったりといったさまざまな進化をしていくことになったというわけです。確かに目で発見されるという状況が生まれたということは、それまでにない苛烈な生存競争の引き金となったはずです。

 

ではなぜ目が進化したのか、その理由は明らかではありません。何らかの理由で地球に届く太陽光が増え、陸上も水中も明るくなったことがその誘因となったと考えられています。

 

■恐竜はなぜ短期間で絶滅したのか?

また2億3000万年前頃に爬虫類から進化して誕生した恐竜はその後、多くの種類に分かれ、地上に広く生息していました。しかし6600万年前頃に突然姿を消します。約1億6000万年もの間生きていた恐竜がなぜ短期間で絶滅したのか、その理由も分かっていません。

 

地球の気候が激変しそれに対応できなかったと考えられ、そのきっかけとなったのが巨大な隕石の衝突だったという説が有力視されています。巻き上げられたチリやホコリが長期間にわたって空を覆い、太陽の光がわずかしか届かなかったため地表が寒冷化して恐竜だけでなく多くの生物が死んでしまったというのです。

 

隕石ではなく巨大な火山噴火で同様のことが起こったのではないかという説もありますが、真相は分かりません。確かなことは何らかの外部環境の変化とそれへの適応の失敗があったということです。

 

■いつ何が起こるのかを100%予測することは不可能

さらに有史時代に入っても巨大な天変地異は何度も地球を襲いました。そしてこれらについても、誰一人その発生を予測することはできませんでした。ポンペイなどの都市を一瞬で灰の下に埋めた紀元後79年のイタリア・ベスビオ火山の大噴火も、14世紀のヨーロッパに猖獗(しょうけつ)し、当時の人口の約3分の1に当たる2500万人の死者を出したペストの大流行も、近くは東日本大震災もコロナ禍も予測不能でした。

 

我々を取り囲むあらゆる環境変化は、可能性を論じることはできてもそれがいつ起こるという確定的なことは誰にも言えません。もっと身近なところでいえば私たちが毎日接する天気予報でさえも明日の傾向程度は分かっても、それ以上のことは不確定です。

 

それは人間の能力が低いからでも、コンピュータの計算能力やAIの能力が足りないからでもありません。生命の進化のプロセスにも人間の社会の営みにも、すべて不確定性が内在しているからなのです。

私たちの未来は本質的に「不確定」である

分からないとは不確実だということではありません。不確定だということです。同じではないかと思うかもしれませんが、区別して考えたいと思います。

 

■「不確実」とは?

不確実というのは起こるであろう出来事はある範囲で明確だけれども、それがいつなのかあるいは実際に実現するかどうかは分からない、ということを示す言葉です。

 

例えば今日晩ご飯を食べるかどうか、明日出場する野球の試合でホームランが打てるかどうか、これはいずれも分かりません。不確実です。

 

つまり不確実というのは答えとして出てくるものは決まっているのだけれど、実際どうなるかは分からないというときに私たちは使っています。要するに不確実とは、日常的な生活感覚のなかで誤差があり予想しきれないことを指す一般的な言葉です。

 

■「不確定」とは?

これに対して不確定というのは、より本質的な意味で確定できないことを指す言葉です。不確定は私たちが生きている世界の本質としての性格です。

 

天気予報も仮に気象衛星を増やし、超高速の計算ができるAIを導入するなどして道具立てを完璧にしても、100%の予想ができるかといえば決してできません。

 

地球温暖化の進行についても傾向はある仮定の下で推定はされているものの、2050年の平均気温が何度になるのかは分かりません。非常に幅の広い予測があるだけです。

 

しかも現在の予測には今後いつ氷河期が始まるか、太陽の活動がいつ変動するか、大地震、大噴火、疫病による経済の停滞などをどう組み込むかといった過去に実際にあった多くの事柄すら考慮されていません。単純に今のままの経済活動が続くとすれば温度上昇はこうなるはずだと言っているにすぎないのです。

 

しかしたまたまこの100年程度は、人類にとって良い時代であっただけかもしれません。確率として低そうなことはすべて考慮しないことにして、その範囲で予想できるものを計算しているにすぎないのです。しかしその考慮の外側にある多くの大規模な不確定性は確実に存在するのであり、地球の活動にとって根源的なものです。私たちの未来は単に複雑で不確実であるのではなく、どこまで精度をあげても本質的に不確定なままなのです。
 

 

太田 裕朗

早稲田大学ベンチャーズ 共同代表

 

山本 哲也

早稲田大学ベンチャーズ 共同代表

 

 

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    早稲田大学ベンチャーズ 共同代表 京都大学博士

    京都大学大学院工学研究科航空宇宙工学専攻/助教を経て、カリフォルニア大学サンタバーバラ校にて研究に従事。2010年より、マッキンゼー・アンド・カンパニーに参画。2016年より、ドローン関連スタートアップである株式会社自律制御システム研究所(現社名:株式会社ACSL)に参画、代表取締役社長として2018年東証マザーズ上場(CEO、会長を経て2022年3月退任)。

    2021年、早稲田大学総長室参与(イノベーション戦略)。2022年より、早稲田大学ベンチャーズ(WUV)共同代表。

    著者紹介

    早稲田大学ベンチャーズ 共同代表 

    オックスフォード大学理学部物理学科卒業(MA Oxon)後、1994年に三井物産株式会社入社、日米でベンチャーキャピタル事業に従事。2008年、株式会社東京大学エッジキャピタル(UTEC)参画。2009年、取締役パートナー就任。UTECではIT分野を中心とするシード/アーリーステージ投資を担当したほか、グローバル戦略にも注力。産業用ドローン開発の株式会社ACSLや知能化産業用ロボット開発の株式会社Mujin等の創業期に投資し社外取締役を歴任。Forbes JAPANが日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)の協力のもと、毎年行っている「日本版MIDAS LIST」日本で最も影響力のあるベンチャー投資家ランキング2019年度1位。

    2020年にUTEC退任後、2021年より、オックスフォード大学経営大学院在籍(エグゼクティブMBAオックスフォード・アラムナイ・スカラー)、早稲田大学総長室参与(イノベーション戦略)。2022年より、早稲田大学ベンチャーズ(WUV)共同代表。

    著者紹介

    連載イノベーションの不確定性原理

    ※本連載は、太田裕朗氏、山本哲也氏による共著『イノベーションの不確定性原理 不確定な世界を生き延びるための進化論』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

    イノベーションの不確定性原理 不確定な世界を生き延びるための進化論

    イノベーションの不確定性原理 不確定な世界を生き延びるための進化論

    太田 裕朗
    山本 哲也

    幻冬舎メディアコンサルティング

    イノベーションは一人の天才による発明ではない。 そもそもイノベーションとは何を指しているのか、いつどこで起き、どのようなプロセスをたどるのか。誕生の仕組みをひもといていく。 イノベーションを創出し、不確定な…

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