(※写真はイメージです/PIXTA)

今、日本政府や多くの企業が「産官学の連携強化」や「イノベーティブな組織づくり」を謳い、意図的にイノベーションを起こそうとしています。イノベーションを創出するには、どうすればよいのでしょうか。そのヒントを探るため、イノベーションの「実態」に迫ります。

■「蒸気機関車による輸送革命」というイノベーションの“全体像”

「蒸気機関車の父」といえばそれを公共鉄道として実用化したジョージ・スチーブンソンの名前が思い浮かびます。確かに1825年、彼は蒸気機関車「ロコモーション1号」を走らせ本格的な実用化に成功しました。

 

しかし成功は、スチーブンソン一人の能力と手腕によるものではありません。

 

その160年ほど前の1662年、ロンドンで活動していた自然哲学者ロバート・ボイルは「気体の圧力と体積は反比例する」という後に「ボイルの法則」と呼ばれる重要な原理を発見しています。この時、ボイルとともに研究をしていたフランスの科学者ドゥニ・パパンは「圧力鍋」を発明、その後ピストンを内蔵したシリンダー内に少量の水を入れ加熱して蒸気を発生させ、圧力でピストンを押し上げるという初期の蒸気機関の原理を発明しています。そしてこれを鍛冶屋であったトマス・ニューコメンが探鉱で坑道に溜まった水を効率良く排出する機械として1712年に実用化しました。

 

さらにこれを改良したのがジェームズ・ワットです。ピストンの上下運動を回転運動に転換することに成功。水力に頼っていた紡織機の動力源として活用できるようにしました。これが1785年以降のことです。

 

こうした発明の積み重ねと産業の興隆による輸送力増強の要請も背景にして、蒸気機関で動く汽車の開発が進みました。スチーブンソンをはじめ、多くの技術者が挑戦します。そして蒸気紡績機の発明から20年後の1804年、リチャード・トレビシックが世界初となる蒸気機関車を発明しました。

 

その後もトレビシックの機関車をヒントにして多くの技術者が改良を進めるなか、スチーブンソンの「ロコモーション1号」が誕生し、実用に耐える蒸気機関車として走り始めたのです。「ロコモーション1号」も蒸気機関車としての基本的な原理はトレビシックのものと変わりません。実用化できたのは蒸気の発生率の向上や高温・高圧の蒸気を送る強靱なパイプ、ピストンの高速の往復に耐える割れないシリンダーが開発できたこと、さらには蒸気機関車の重量に耐える鉄製のレールの開発・製造が進んだからです。

 

スチーブンソンが蒸気機関車を走らせることができたのは、それ以前の技術開発の積み重ねなしにはあり得ませんでした。しかもそれは単なる技術者の好奇心による発明の連鎖ではなく、炭鉱産業や綿織物工業の現場の一層の効率化という資本家の要求に強く後押しされた社会的な取り組みだったのです。

 

蒸気機関車による輸送革命というイノベーションは、このような社会的背景と産業界の要請に後押しされた一連の長いプロセスのなかの出来事でした。これをスチーブンソン一人の発明物語にしてしまったら、イノベーションの全体像は隠されてしまうのです。

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※本連載は、太田裕朗氏、山本哲也氏による共著『イノベーションの不確定性原理 不確定な世界を生き延びるための進化論』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

イノベーションの不確定性原理 不確定な世界を生き延びるための進化論

イノベーションの不確定性原理 不確定な世界を生き延びるための進化論

太田 裕朗
山本 哲也

幻冬舎メディアコンサルティング

イノベーションは一人の天才による発明ではない。 そもそもイノベーションとは何を指しているのか、いつどこで起き、どのようなプロセスをたどるのか。誕生の仕組みをひもといていく。 イノベーションを創出し、不確定な…

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