(※写真はイメージです/PIXTA)

今、日本政府や多くの企業が「産官学の連携強化」や「イノベーティブな組織づくり」を謳い、意図的にイノベーションを起こそうとしています。イノベーションを創出するには、どうすればよいのでしょうか。そのヒントを探るため、イノベーションの「実態」に迫ります。

イノベーションは「一人の天才による偉業」ではない

イギリスの産業革命を牽引した蒸気機関の発明とその動力への応用に始まり、白熱電球の発明、飛行機や自動車の発明、ワクチン開発、コンピュータの発明やLED照明、インターネット、検索エンジンの発明など、これまで多くのイノベーションがありました。

 

個人宅への宿泊を仲介するのみで客室を所有しないホテル事業や、同じように個人ドライバーと乗客を仲介するだけで営業車両をもたずに行う配車サービス事業などのビジネスモデルもイノベーションでした。いずれも、それまでの産業や社会、市民生活を二度と後戻りできないように劇的に変えました。

 

これらのイノベーションがどのようにして生まれたのか、その経過を改めて振り返ると、一つの発明やアイデアが実現されたという単純なストーリーでは説明できない複雑な要素が絡んだものであるという事実が浮かび上がってきます。

 

それを緻密な考証で明らかにしたのが科学啓蒙家のマット・リドレーでした。

 

マット・リドレーの著書『人類とイノベーション:世界は「自由」と「失敗」で進化する』にはこう語られています。

 

●イノベーションといわれるもののほぼすべてが従来イメージされているような一人の天才的な人間の偉業ではない。

●同じ考えをもっていた人間は同時代に数多く存在している。

●画期的な発明・発見というよりは、すでに分かっていることの組み合わせや応用が源泉である。

●厳密に組み立てられた論理から導かれた結果ではなく、ほとんどが偶然の産物である。

 

「『イノベーション』という言葉は、先進的と思われようとする企業によって驚くほど頻繁に使われるが、それがどうして起こるかについての体系的な概念はほとんど、またはまったく確立されていない。意外な事実だがイノベーションがなぜ起こるのか、どうやって起こるのか、そしてもちろん次にいつどこで起こるのか、誰も本当のところは知らない」

 

とリドレーは書き、続けて

 

「イノベーションは一般に思われているよりはるかにチームスポーツであり、共同事業なので、単独で働いている人はほとんどいない」「イノベーションはふつう指導されるものでも、計画されるものでも、管理されるものでもない。(中略)イノベーションは容易に予測できるものではない。主に試行錯誤で進行する、人間バージョンの自然淘汰である」

 

と書いています(いずれも『人類とイノベーション:世界は「自由」と「失敗」で進化する』太田直子訳 NewsPicksパブリッシング)。

 

例えばトーマス・エジソンが1879年に発明したといわれる白熱電球は、その日付までに独自に白熱電球を設計した、または重大な改良を加えたと主張できる人は21人に上るとリドレーは明らかにしました。

 

また白熱電球の例と並べてマット・リドレーも言及していますが、イギリス産業革命の原動力となった蒸気機関についても一人の発明家の偉業のようなものとはいえないことは明らかです。

次ページ「蒸気機関車による輸送革命」の“全体像”

※本連載は、太田裕朗氏、山本哲也氏による共著『イノベーションの不確定性原理 不確定な世界を生き延びるための進化論』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

イノベーションの不確定性原理 不確定な世界を生き延びるための進化論

イノベーションの不確定性原理 不確定な世界を生き延びるための進化論

太田 裕朗
山本 哲也

幻冬舎メディアコンサルティング

イノベーションは一人の天才による発明ではない。 そもそもイノベーションとは何を指しているのか、いつどこで起き、どのようなプロセスをたどるのか。誕生の仕組みをひもといていく。 イノベーションを創出し、不確定な…

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