日本でイノベが生まれない根本要因…「さあ、イノベーションを起こそう」の勘違い (※写真はイメージです/PIXTA)

今、日本政府や多くの企業が「産官学の連携強化」や「イノベーティブな組織づくり」を謳い、意図的にイノベーションを起こそうとしています。しかし、イノベーションとは謎に包まれた現象です。何がきっかけで生まれ、どのような経過をたどって社会に受け入れられるのかをはっきり説明することは容易ではありません。イノベーションを創出する真の近道を探るため、本稿ではまず、「イノベーションとは何か?」という本質的な問いに迫ります。

「イノベーション」とは「進化のプロセス」である

今、ビジネスの世界でイノベーションという言葉を耳にしない日はありません。しかしその意味するものは曖昧で、統一した定義もありません。「モノやサービスに新たな考え方を導入して今までにない価値を生み出すこと」と説明されたり、あるいは「新機軸のビジネスアイデアのようなもの」「要するに何かを新しくすること」とやや乱暴にまとめられたりしています。

 

しかしこのように漠然とした受け止めをしている限り、いかにイノベーションを渇望し必要性を説いても決して実現することはできないと思います。

 

私たちはこうとらえます。

 

「イノベーションとは産業革命を契機にして始まった人類社会の新たな進化のプロセスである」と。

 

産業革命は人類社会にとって巨大なゲームチェンジでした。そこから人類はまったく新しい爆発的な進化の過程に入っています。イノベーションできないもの、つまり進化しないものは淘汰されていきます。私たちは今、好むと好まざるとにかかわりなくこのプロセスのなかにいるのであり、生存を賭けて進化の道を歩んでいかなければなりません。

 

■産業革命以前にも「優れたアイデア・発明」は多々あったが…

長い人類史を遡れば火の発見があり、石器や青銅器、鉄器、車輪などのさまざまな道具の発明がありました。建築技術も古代エジプトのピラミッド以来、古代ギリシア・ローマの神殿建築など高度なものが考案され、紙やその後の活版印刷の発明も人類史にとって大きな価値をもつものでした。

 

しかしこれらは優れたアイデアであり発明であっても、私たちが考えるイノベーションではありません。なぜならそれらは特定の個人や集団のなかでのみ用いられた閉ざされた発明であって、恩恵を受けたものも限られた一部の人間にすぎないからです。人々の生活や社会そのものを一新し、今の言葉でいえば「バージョンアップ」するようなものではありませんでした。

 

例えば巨石を運び積み上げる技術や巧みに力を分散して塔を築く技術がいくら開発されても、多くの人は石の運び手として動員されるだけで彼らの生活がその技術によって革新されたわけではありません。同様に紙も手動の印刷技術も限られた世界で開発・改良され利用されていただけで、人間社会そのものを改変したわけではありません。

 

しかし産業革命として現れたもの、それが人類社会にもたらしたものは革命的な変化です。紀元前数千年以来の人類史の中でも、明確にその前と後を画する歴史的出来事でした。

 

イギリスでの産業革命は18世紀半ばから19世紀にかけて興りました。科学的発見や知見について、ほとんど制約がなく興味や意思をもつ多くの人が関与することができました。そして切磋琢磨し技術を磨きさまざまな機械を実用化していきました。それを認める社会があり、成果を個人の権利として認め保護する制度があったのです。加えて、チャレンジする個人や組織を資金面で支援する資本家も存在していました。発明やアイデアを産業として育成し、社会に定着させる仕組みが長い人類史のなかで初めて生まれたのです。

 

ここで始まった新たな人類の進化のプロセスこそイノベーションです。人類は新たに技術と人と経済と政府の全体が相互連携する社会を創造しそのなかで進化していくという段階に入ったのであり、これに背を向ければ衰退し滅亡するだけです。

 

進化しないものは淘汰されるというのは人類だけでなく、あらゆる生命の歴史の基本的な原理です。外部環境の変化のなかで、試行錯誤を繰り返しながら新たな環境に適応したものが生き残るのです。同様に、新たに始まっている進化のプロセスのなかで何もせず旧来のままでいたら生存できません。

 

現在の日本には、今までのままでも生きていけるという感覚をもっている人が少なくありません。しかし産業革命以降のステージでは、そのプロセスにふさわしい試行錯誤をしなければ生き延びることはできません。新たな試行錯誤に向けて一歩を踏み出すためにも産業革命以後始まっている人類社会の爆発的な進化の様相をしっかりとつかみ、進化のプロセスを学んで私たちも歩み始めなければならないのです。

早稲田大学ベンチャーズ 共同代表 京都大学博士

京都大学大学院工学研究科航空宇宙工学専攻/助教を経て、カリフォルニア大学サンタバーバラ校にて研究に従事。2010年より、マッキンゼー・アンド・カンパニーに参画。2016年より、ドローン関連スタートアップである株式会社自律制御システム研究所(現社名:株式会社ACSL)に参画、代表取締役社長として2018年東証マザーズ上場(CEO、会長を経て2022年3月退任)。

2021年、早稲田大学総長室参与(イノベーション戦略)。2022年より、早稲田大学ベンチャーズ(WUV)共同代表。

著者紹介

早稲田大学ベンチャーズ 共同代表 

オックスフォード大学理学部物理学科卒業(MA Oxon)後、1994年に三井物産株式会社入社、日米でベンチャーキャピタル事業に従事。2008年、株式会社東京大学エッジキャピタル(UTEC)参画。2009年、取締役パートナー就任。UTECではIT分野を中心とするシード/アーリーステージ投資を担当したほか、グローバル戦略にも注力。産業用ドローン開発の株式会社ACSLや知能化産業用ロボット開発の株式会社Mujin等の創業期に投資し社外取締役を歴任。Forbes JAPANが日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)の協力のもと、毎年行っている「日本版MIDAS LIST」日本で最も影響力のあるベンチャー投資家ランキング2019年度1位。

2020年にUTEC退任後、2021年より、オックスフォード大学経営大学院在籍(エグゼクティブMBAオックスフォード・アラムナイ・スカラー)、早稲田大学総長室参与(イノベーション戦略)。2022年より、早稲田大学ベンチャーズ(WUV)共同代表。

著者紹介

連載イノベーションの不確定性原理

※本連載は、太田裕朗氏、山本哲也氏による共著『イノベーションの不確定性原理 不確定な世界を生き延びるための進化論』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

イノベーションの不確定性原理 不確定な世界を生き延びるための進化論

イノベーションの不確定性原理 不確定な世界を生き延びるための進化論

太田 裕朗
山本 哲也

幻冬舎メディアコンサルティング

イノベーションは一人の天才による発明ではない。 そもそもイノベーションとは何を指しているのか、いつどこで起き、どのようなプロセスをたどるのか。誕生の仕組みをひもといていく。 イノベーションを創出し、不確定な…

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