田中角栄は42年間にわたる国会議員在任中に、46本の議員立法を提案し、そのうち33本を成立させるという、前代未聞の業績を持っています。当初の予定をはるかに超えて5時間に及んだ田中角栄へのインタビューで語ったこととは。ジャーナリストの田原総一朗氏が著書『田中角栄がいま、首相だったら』(プレジデント社)で解説します。

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角栄の「構造改革」のビジョンとシナリオ

■「一日生活圏、一日経済圏、一日交通圏」

 

この激しい流れを変えるためには構造改革が必要だと、角栄は力説していく。その「構造改革」のビジョンとシナリオを示したのが、「都市政策大綱」なのである。

 

「都市政策大綱」はその前文で、「都市の主人は工業や機械ではなく、人間そのものである」と謳っている。ここでいう都市とは、東京や大阪など既存の都市を示しているのではない。

 

「この都市政策は日本列島全体を改造した、高能率で均衡のとれた、ひとつの広域都市圏に発展させる」と述べたうえで、「新しい日本の創造はここに始まる」と高らかな調子で結んでいる。これが田中角栄の基本思想なのだ。

 

たとえば、日本列島をひとつの広域都市圏にするには、北海道から九州まで(当時、沖縄はまだ返還されていない)、どこからどこへでも日帰りで往復できることが必要だ。

 

そこで角栄は、「一日生活圏、一日経済圏、一日交通圏」という言葉を提唱した。この3つの条件が達成されれば、第二次、第三次産業を全国に配置することができる。過疎地に悩む日本海側や内陸部の地域にも産業を配置することができ、過密や過疎の問題が解決すると考えたのである。

 

そのために、まず北海道から九州まで新幹線を通し、全国に高速道路網をはりめぐらせ、第二、 第三の国際空港と各地に地方空港を誘致し、四つの島(北海道、本州、四国、九州)を海底トンネルか橋で結ぶという方針を打ち出した。交通さえ便利になれば第二次、第三次産業が地方に配置されるというのは、あくまで高度経済成長を前提にした発想だが、当時は人口減少など考えられておらず、角栄の見通しは理に適っていた。

 

この論文で注目すべき点は、「土地の私権は公共の福祉のために道を譲る」と謳っていることだ。 つまり、戦後日本でタブーとされてきた「私権の制限」に触れたのだ。それまで、大都市で道路や公園の建設を計画しても、私権の壁に阻まれたり膨大な補償費を要求されたりして、計画が事実上不可能となるケースが非常に多かったのである。 

 

「大綱」が発表された翌日、自民党に常に批判的な朝日新聞ですら、社説に次のように書いている。

 

「この大綱は高く評価されてよいだろう。公益優先の基本理念を明確にしたことなど、これまでの自民党のイメージをくつがえすほど、率直、大胆な内容を持っている。政府・与党が勇気をもって実現に努めることを期待する」

 

私は、この論文で、田中角栄の想像力に引き込まれたのだ。それまでの政治家には感じられなかった点であった。

 

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本連載は田原総一朗氏、前野雅弥氏の著書『田中角栄がいま、首相だったら』(プレジデント社)より一部を抜粋し、再編集したものです。

田中角栄がいま、首相だったら

田中角栄がいま、首相だったら

田原 総一朗 前野 雅弥

プレジデント社

2022年は、田中角栄内閣が発足してからちょうど50年にあたる。田中角栄といえば、「ロッキード事件」「闇将軍」といった金権政治家のイメージが強いが、その一方、議員立法で33もの法案を成立させたり、「日本列島改造論」に代…

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