(※写真はイメージです/PIXTA)

相続税の「配偶者控除」について、控除額や適用される条件、計算方法、必要書類の書き方など、税理士法人ブライト相続・代表社員税理士の戸﨑貴之氏の解説で確認していきます。

相続税の配偶者控除とは

相続税の配偶者控除とは、被相続人の配偶者が相続により取得した遺産が、次の金額のどちらか多い金額までは配偶者に相続税はかからないという制度です。

 

(1)1億6千万円

(2)民法で定められた配偶者の法定相続分

 

ただし、この制度は以下の3つの適用要件を満たしていないと適用できません。

 

①法律上の婚姻関係にある配偶者であること

 

…この制度の対象者は、「法律上の婚姻をしている被相続人の配偶者」であるため、日本の法律において婚姻関係が認められていない、いわゆる内縁の妻・内縁の夫は適用要件を満たしません。

 

②申告期限までに遺産分割が終わっていること

 

…原則、配偶者の税額軽減は遺産分割が確定していないと適用できません。なぜなら配偶者の税額軽減額は、配偶者が遺産分割などで実際に取得した財産を基に計算されることになるからです。

 

③申告期限までに相続税申告をしていること

 

…この制度を適用するには税務署への申告が不可欠となります。ただし、相続した財産の評価額が基礎控除額を超えていない場合はそもそも相続税が発生しないため、相続税申告は不要となります。

 

【関連記事】「相続税」いくらから申告するもの?基礎控除・税率の計算から生前贈与まで、税理士がわかりやすく解説

配偶者の法定相続分とは

民法で定められた法定相続分による遺産相続を行う場合、亡くなった方の配偶者は常に相続人となります。配偶者の法定相続分は、一緒に相続人となる人が誰かによって割合は異なります。

 

・死亡した人の子供の場合……配偶者:1/2、子:1/2 (1/2を子の人数で割る)

・死亡した人の直系尊属(父母や祖父母など)の場合……配偶者:2/3、直系尊属:1/3 (1/3を直系尊属の人数で割る)

・死亡した人の兄弟姉妹の場合……配偶者:3/4、子:1/4 (1/4を兄弟姉妹の人数で割る)

配偶者に“大きな特例”が適用されるワケ

配偶者にこのような優遇措置が設けられている理由は下記の通りとなります。

 

・相続財産は夫婦で築き上げてきたものであり、配偶者の貢献を認めるため

・配偶者の税負担を減らすことで、配偶者の今後の生活の負担を減らすため

・配偶者の相続財産を次の代が相続する際に、短期間での相続税負担を防ぐため

配偶者控除の計算方法

では、具体的な数字を用いて配偶者の税額軽減額を計算してみましょう。

 

被相続人で相続人として配偶者と長男がいる場合、法定相続分は下記の通りとなります。

 

配偶者:1/2

長男 :1/2

 

ケースに分けてご説明していきます。

 

(1)相続財産が3億円の場合

 

相続人が配偶者・長男の場合、相続税の総額が約7,000万円となります。
配偶者が法定相続分1/2にあたる1億5千万円分を取得した場合、1億6千万円以内の取得になりますので、配偶者に対して相続税はかかりません。

 

 

(2)相続財産が4億円の場合

 

相続人が配偶者・長男の場合、相続税の総額が約1億1千万円となります。

 

配偶者の法定相続分1/2にあたる2億円は1億6千万円超です。そのため、配偶者に対して2億円分相当の取得までは相続税はかかりません。

 

 

控除には申告が必須?…必要書類の書き方

先ほど申しあげたとおり、配偶者の税額軽減を適用するには遺産分割協議で財産の取得者を確定することと税務署への申告が不可欠となります。

 

なお、配偶者の税額軽減の適用を受けたことで相続税額が0円となった場合でも、相続税申告が必要となるので、注意が必要です。

 

申告の方法ですが、相続税申告書の「第5表 配偶者の税額軽減額の計算書」の該当箇所を書き加えて、申告期限内に税務署に提出すると適用ができます。相続税申告書は、国税庁のホームページからダウンロードできます。

 

【参考】相続税の申告書等の様式一覧(令和元年分用)|国税庁 (nta.go.jp)

 

また、配偶者である証明と遺産分割の内容を証明する必要があるため、以下の書類を相続税申告書に添付する必要があります。

 

●被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本

●遺言書の写しまたは遺産分割協議書の写し

●相続人全員分の印鑑証明書(遺産分割協議書の写しを添付する場合)

二次相続のことを考え“慎重に活用”すべき理由

ご夫婦のうち、先に亡くなられた方の相続を「一次相続」、残された方の相続を「二次相続」といいます。一次相続で配偶者控除の適用を受けて配偶者が相続税を支払わなかった場合、次の世代の方がその分受け継ぐ財産も大きくなります。

 

このような場合、近いうちに起こることが予想される二次相続の際に子が多額の財産を相続することになり、相続税の負担がかなり大きくなってしまう可能性が考えられます。なぜなら、相続人が1人減ることで、基礎控除額が減ること、また子が相続人であるため配偶者の税額軽減額などの制度が適用できないからです。

 

こうしたデメリットが生じないように、一次相続で配偶者の税額軽減額を適用する場合は二次相続のシミュレーションをするなどの慎重な判断が必要となります。

 

遺産分割においては、『相続人皆様のお考えを尊重すること』も大切ですが、『二次相続税の負担』や『配偶者の今後の生活』ということも考慮してバランスのとれた遺産分割を行うことが望ましいです。

 

二次相続税のシミュレーションにおいては、計算も難しいため相続に詳しい税理士に依頼することが推奨されます。

 

 

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戸﨑 貴之

税理士法人ブライト相続 代表社員税理士

 

 

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