医療処置と介護サービスとの大きな違い
■医療は個人能力、介護は集団能力
医療処置と介護サービスとの大きな違いは何でしょうか。医療の限界とは、自分の力の限界です。したがって、能力の高い医師や看護師は、この程度の身体状態の入居者であれば、自分には経験と知識があるため、何ら問題なく受け入れることは可能だと判断します。
しかし、経験や知識などがない医師や看護師は、自分にはできない、心配だ、と考えるので、受け入れには消極的になります。
介護サービスの限界とは、当該ホームにいる介護職員全員の集団としての限界です。したがって、いくら能力の高い介護職員がいたとしても、そこに能力の低い介護職員がいる場合は、そのホームの介護能力は、低い介護職員に合わせていく流れになってしまいます。つまり、医療対応能力は個別事情、介護対応能力は集団事情による、ということなのです。
もう少し、この問題を掘り下げていきましょう。常識で考えてみればわかる話です。老人ホームで働く医療職(多くは看護師を指します)は、いったい、どのような背景を持った医療職が多いと思いますか? 中には、高齢者介護を医療面で支えたいと真剣に考え、高齢者のことを猛烈に勉強している医療職はいると思います。
けれども、それは少数派です。多くの医療職は、医療最前線では、もはや通用しなくなった医療職ばかりです。平たく言うと、最前線の医療現場を引退した医療職ということになります。
介護保険3施設の中に老人保健施設という施設があります。俗に、世間では「老健」と言われています。老健は、医師の配置が絶対条件であり、施設長イコール医師というルールになっています。そして、この老健に従事している医師の多くは70歳以上の高齢者ばかりです。中には80歳以上で、いったいあなたは、入居者ですか? お医者さんですか? というケースもけっして少なくありません。これが実態です。
もちろん、創業家に生まれ、老健経営に情熱を持っている立派な若い医師もいると思います。さらに言えば、高齢であっても医療への情熱が冷さめていない医師もいるはずです。
しかし、多くの介護事業の専門家は、「老健という施設は、情熱のある医療従事者がやると経営がうまくいかない」と口をそろえます。私もそう思っている一人です。それは、病院ではなく、介護施設だからです。この言葉が、すべてを物語っているはずです。
したがって、介護現場にいる多くの医療従事者は、医療に対し慎重で消極的で、自分の持っている能力の50%程度のレベルに仕事の限界点を設定しているように思えます。慎重のどこがいけないの? リスキーな医療に挑戦することは、一見、正当性があり、華やかに見えるけど、人の命がかかわっている医療の中で、一か八かの医療処置などされたらたまったものではない、という読者もいるのではないかと思いますが、それは医療の最前線にある大学病院で議論してもらう話です。