不動産経営をするにあたって、収支の管理はとても重要なポイントです。しかしながら「いまいち理解できていない…」という方は少なくありません。
そこでこの記事では、不動産投資における経費について詳しく解説していきます。あわせて、一般的な経費の考え方や経費率についても紹介します。不動産投資における節税のポイントを知り、利益を最大限に増やしましょう。
1. 不動産投資における経費とは?
まず不動産投資における経費とは何を意味するのでしょうか? その基本的な知識からおさらいしていきましょう。
不動産投資における経費とは、不動産投資によって所得を得るためにかかった費用のことを指します。たとえば、物件の調査・購入や維持にかかる費用、物件までの移動費など、資産を保有または管理するために避けられない支出が経費となります。
一般企業でも交通費、事務処理に必要な紙やペン、パソコンなどの電子機器、社用車など、会社を運営していくなかで必ずかかる経費があります。
このように不動産投資でも収入を得るためには、必ず何かしらのお金がかかります。この諸費用を経費という形で差別化しているのです。
2. なぜ経費を計上するとよいのか?
それではなぜ不動産投資によって所得を得るためにかかった費用を、経費として計上するほうがよいと言われているのでしょうか? それは「税金を減らせる」という大きなメリットがあるためです。
不動産投資では、家賃収入から経費を引いた利益に対して所得税が発生します。所得税額は所得の大きさによって決まります。
具体的には、所得税は以下の計算式で算出されます。
上記の式からも分かるように、必要経費の金額が大きいほど収入額が減り、結果として所得税額が少なくなります。
もしこの経費を計上せずに申告をしてしまうと、本来払わなくてもいい所得税まで納めることになってしまいます。ある意味で損をしているということです。
たとえば、年間不動産投資の収入額が1,000,000円、経費が100,000円だったとします。経費の計上を行う場合と行わなかった場合で、それぞれ所得税を計算すると以下のようになります(簡略化するために不動産による所得税額のみ、かつ控除額はなしで算出しています)。
所得税額(経費計上なし)=1,000,000×0.05=50,000円
ご覧の通り、5,000円の差額が生じることが分かります。今回は計算しやすいように簡単な数字を用いましたが、実際は収入も経費ももっと高額になる方が多いです。そうなるとさらに経費を計上するのとしないのとでは、差が大きくなっていきます。
3. 不動産投資で経費にできるもの
不動産投資でかかった費用を経費として計上すると、利益を最大化することができると分かりました。では経費として計上できるものにはどのようなものがあるのか、具体的に紹介していきます。
3.1. 不動産の減価償却費
不動産は耐用年数がある減価償却資産であるため、建物の部分については物件を購入するのにかかった費用を耐用年数で割った金額を毎年「減価償却費」として経費計上できます。
減価償却費は実際に支出があるわけではないため、節税効果としては期待ができる項目の1つです。計上には契約書や領収書が必要になります。
3.2. 不動産投資にかかる税金
不動産投資をしていくうえで様々な税金がかかりますが、それらの税金を経費として計上することができます。
たとえば、固定資産税、不動産取得税、事業税、印紙税、自動車税などです。ただし後述しますが所得税・住民税・法人税の3つは経費として認められないため、注意しましょう。
計上には税金を支払ったときの領収書やレシート、銀行口座の履歴などが必要です。
3.3. ローンの金利
不動産の購入には多くの資金が必要なため、金融機関のローンを組んで投資をはじめる方も多いでしょう。そのときに発生するローンの金利も経費として計上できます。ただし、ローンの元金については経費に計上できません。
ローンを組んでいる方は必ず計上することをおすすめします。申請には銀行口座の支払い履歴が必要となります。
3.4. 保険料
不動産を購入するときには一般的に、自然災害や損害に備えて保険に入ります。たとえば火災保険、地震保険、施設賠償責任保険などがあります。これらの保険料も経費に計上できます。
経費として申請する際には保険会社から届く証書や保険料が引き落とされる口座の履歴が必要です。
3.5. 修繕費
不動産は経年劣化などによって修繕が必要になることがあります。築年数が増えれば増えるほど、修繕が必要になる部分も増えていく可能性が高いです。
これらの修繕費は経費として計上できます。申請には領収書や明細書などが必要になりますので、忘れずに保管しておきましょう。
3.6. 管理費
不動産を所有する場合、一般的には不動産管理会社に委託する形で管理します。自身で管理するのもよいですが、定期的に不動産のチェックや修繕などの処理を自分一人で行うのは大変です。
不動産管理者に委託する際に発生する管理委託料としてかかる費用も経費として申請することが可能です。申請の際には領収書や明細書が必要になります。
3.7. 入居のための広告宣伝費
マンションやアパートは入居者が入らないと収入を得られません。そのため、入居者を募集するためにネットやチラシなどで広告宣伝を行う必要があります。.
これらの宣伝には掲載費や広告費がかかります。不動産管理会社の方でも広告掲載はしてもらえますが、その他にも掲載を希望する場合は自分で広告宣伝費という形でお金を払います。
この広告宣伝費も経費として計上できるため、領収書や明細書の保管を忘れずに行いましょう。
3.8. 管理委託料・仲介手数料
先にお伝えした不動産会社への管理委託料の他に仲介手数料などの様々な手数料も経費として認められています。申請には領収書やレシートを用意するようにしてください。
手数料は不動産を管理するにあたって避けられない支出の1つです。忘れずに経費として計上し、税金対策を行うことをおすすめします。
3.9. 税理士などの専門家に支払う報酬
不動産投資ではたくさんの経費が計上できることが分かりましたが、これらの計上を一人で行うのはなかなか骨が折れる作業です。複数の不動産を保有しているのであれば尚更です。
これらの作業を円滑に進めるため、専門の税理士に委託するのも1つの方法です。この税理士に支払う報酬も経費として計上可能です。申請の際は明細書を忘れずに用意しましょう。
3.10. 不動産に使用する通信費
不動産管理会社や税理士との連絡、インターネット回線・郵送費など、やり取りや情報収集にかかる通信費も経費として認められています。申請するには領収書、レシート、明細書などが必要です。
不動産管理には関係者との連絡が必要不可欠です。所得税の負担を軽くするためにも、漏れなく申請を行うようにしましょう。
3.11. 不動産投資に関わる旅費・交通費・自動車の費用
投資している不動産が自宅から近いとは限りません。自宅から遠い場合は交通費がかかるだけでなく、宿泊や食事にかかる滞在費も発生します。
これらの不動産を見学したり確認したりするために発生したガソリン代や高速代なども経費として計上します。計上には領収書やレシートが必要です。
3.12. 情報収集や勉強にかかった費用
不動産運営では景気の状況や各方面の様々な情報収集が欠かせません。情報収集にかかった新聞代、書籍代、セミナー代、コンサルティング代なども経費として認められます。
しかし後述しますが、不動産関連の資格を取得するためにかかった教材費や試験料などは経費として計上できないため、注意が必要です。
3.13. 打ち合わせなどの交際費
不動産投資をスムーズに進めるために、不動産管理会社や税理士との会食費といった交際費がかかることもあります。これらの食事代などは経費として認められています。計上するためには領収書やレシートなどが必要となります。
ただし、家族や友人との食事については交際費として計上できませんので、混同しないようにしましょう。
4. 不動産投資で経費にできない(認められにくい)もの
ここまで経費として計上できるものを紹介してきましたが、不動産投資の運営や維持に必要となる費用を全て経費として計上できるわけではありません。ここからは、不動産投資にて経費として認められにくいものについて紹介していきます。
4.1. スーツや腕時計の購入費用
スーツや腕時計といった服飾品については、たとえビジネスで着用するものであっても、ファッション性の高いアイテムは経費として認められないことが多いです。
スーツや腕時計の他にもメガネ、ビジネスバッグ、財布、アクセサリーなども同様です。衣類や装飾品はビジネスだけでなくプライベートでも使う場合があるため、経費としてみなされない可能性が高いです。
4.2. スポーツジムなどの会費
法人として経営を行っている場合、家族以外の従業員に対してジムなどの会費を福利厚生費として経費に計上できる可能性はあります。
しかし個人事業主の場合、事業主本人とその家族には福利厚生費が認められていないため、個人での利用または家族によるスポーツジムやバーなどの会員制施設を利用した際の会費は経費には含められません。
4.3. 反則金や罰金
移動中などの交通違反による反則金や罰金は経費として認められません。交通費のなかで社用車の車代・メンテナンス代・自動車税・保険料は経費として計上できますが、違反金に関してはできません。
また事故などによる賠償金は経費になりませんが、車を運ぶ際のレッカー代金は経費にすることができます。
4.4. 所得税や住民税など税金
所得税・住民税・法人税については、不動産投資だけに発生する税金ではないため、経費として計上できません。一方で先に解説したように固定資産税、印紙税、自動車税、利子税などは経費として認められます。
税金全てが経費の対象ではないことを覚えておきましょう。
4.5. 資格取得にかかる費用
不動産投資を行う上での知識を得るために、様々な資格を取得する方もいます。しかしこれらの資格取得にかかった費用は経費として認められません。これは投資の運用に直接的に関わるものではなく、個人のスキルやレベルアップのために使われる費用だからです。
ただし情報を得るものとして新聞代や書籍代などは経費として認められます。区別ができるようにしておくことが大切です。
5. 経費の目安と一般的な経費率について
不動産投資で多くの利益を得るためには、経費がいくらかかっているのかを知ることも大切です。経費の目安として参考になるのが「経費率」です。
経費率とは、不動産投資で得た家賃収入に対して、経費の割合がどの程度かを表す数値のことです。経費率は下記の計算式で算出します。
たとえば年間の経費合計額が10万円で、年間の家賃収入が100万円だった場合、経費率は10%となります。
一般的に経費率の相場は15~20%程度と言われています。ただし、物件の築年数や入居率、ローン金利などそれぞれの状況によって条件は変わるため、あくまで一般的な「目安」として考えておきましょう。
6. 経費に関する注意点
不動産投資を行っていくうえで経費の計上はとても重要な項目であることが分かりましたが、経費の計上に関してはいくつか注意点もあります。最後に、経費に関して事前に知っておきたい注意点について解説していきます。
6.1. 領収書は保管しておく
経費として計上するものについては、必ず領収書を保管しておきましょう。確定申告時には本当にその費用がかかったのかを証明するものが必要になる場合があります。その証明をするものとして領収書が使われるため、経費として落とせる費用を支払う場合には忘れずに領収書をもらうようにしましょう。
もし領収書がない場合は、クレジットカードの明細書、電子マネーの支払い履歴、請求書、納品書なども領収書の代わりに使用できます。また、出金伝票や経費精算伝票を起票することでも代用できます。
6.2. 経費のために出費を増やさない
経費を計上することは節税対策にはなりますが、節税のために無駄に出費を増やすと利益が最大化されません。経費はあくまで支出であるため、不動産収入からマイナスされるお金となります。経費を増やすほど確かに税金は安くなりますが、その分収入が直接減ることを認識しておく必要があります。
また、経費を増やすために何でも経費として計上していると、経費として疑わしいものまで計上してしまい、脱税を疑われる可能性もありますので注意が必要です。
6.3. 不動産投資に関わる経費は前もって予測しておく
不動産投資に関わる経費は前もって予測して、予算を立てておくことをおすすめします。
節税をするつもりであれば、事前にしっかりと経費を計算しておかないと「思った以上に経費がかからなかった」という場合に、想定外に税金額が増えてしまうことにつながります。
また、経費の予測をする場合には、突然の設備故障などによる想定外の出費が発生することも織り込んで予測する必要があります。突然の出費によって手元の資金がなくなり、最悪の場合支払いができなくなるといったリスクを避けるためです。
「思っていたより経費が少なすぎた」「想定外に経費が増えてしまった」といったことを避けるためにも、事前にある程度予測して対策を立てておくことが大切です。
7. 不動産投資にかかる経費を理解して利益を最大化しましょう
不動産投資の利益を最大限に活かすためには、経費にできるものとできないものを理解し、経費にできるものはできるだけ計上しましょう。経費を計上することで、所得税の軽減につながります。
ただし、税金が減らせるからといってむやみに経費を増やすことは得策ではありません。経費計上による節税対策よりも、経費を減らすことのほうが直接的に利益を大きくできるからです。
しかし、いかなる場合でも経費は必ずかかってきます。やむを得ずかかった経費については計上することに越したことはありません。利益と経費を含めた支出のバランスを考えながら運用していくことが大切です。