パソコンの「減価償却」…価格帯に応じた償却方法や耐用年数、計算方法は?【税理士が解説】

パソコンの「減価償却」…価格帯に応じた償却方法や耐用年数、計算方法は?【税理士が解説】
(※画像はイメージです/PIXTA)

パソコンの減価償却のルールは価格帯によって異なります。また、そのルールの違いによって、税負担に大きな差が生じます。「決算対策」「節税」に役立つといわれることもあります。どのようなパソコンを選べば早く償却できるのか、税理士法人グランサーズ代表で税理士・公認会計士の黒瀧泰介氏が整理して解説します。

パソコンを購入した場合、どのような経理処理を行えばよいのか、それによって税負担がどれくらい違ってくるのか、悩ましいところだと思われます。特に、減価償却においては「短期で、大きな額を償却する」ということが大切です。

 

そこで、本記事では、パソコンの減価償却のルールを「価格帯」別に解説します。具体的な計算例も記載しておりますので、ぜひ参考にしてください。

 

目次
はじめに|減価償却とは
1. パソコンを減価償却する場合の計算の流れ
1.1.「取得原価」の計算|周辺機器も含める
1.2. 法定耐用年数|サーバー用とその他で異なる
1.3.「1台30万円未満」は「特例」で処理
2. パソコンの価格帯による減価償却の方法
2.1.「1台10万円~20万円未満」のパソコン|「一括償却資産」として経費化
2.2.「1台10万円~30万円未満」のパソコン|「少額減価償却資産の特例」で経費化
2.3.「1台30万円以上」のパソコン|原則どおりの減価償却で経費化
3. 減価償却の計算方法(定額法と定率法)
3.1. 定額法と計算例
3.2. 定率法と計算例
3.3. 個人事業主が「定率法」を使用したい場合は税務署に届出が必要
4.「パソコンソフト」も減価償却できる
まとめ

はじめに|減価償却とは

はじめに|減価償却とは
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

まず、前提として、減価償却とはどういうものか、手短かにおさらいします。

 

減価償却とは、資産(減価償却資産)の購入代金の額(取得価額)を、その年度に一気に全額を費用計上せず、法令で決まった「耐用年数」に応じて分割して経費計上していく会計処理のことです。資産は購入した年度だけでなく何年にもわたって収益を生んでいくので、それに対応して費用を計上していくための処理です。

 

法定耐用年数が短いほど、一年あたりの減価償却費が大きくなり、課税所得を減らす効果が高くなります。

 

1. パソコンを減価償却する場合の計算の流れ

1. パソコンを減価償却する場合の計算の流れ
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

次に、パソコンを減価償却する場合の計算の流れを確認しておきます。

 

1.1.「取得原価」の計算|周辺機器も含める

まず、パソコンの減価償却の処理は「取得価額」について行います。取得価額は1台ごとに計算します。また、周辺機器(キーボード、マウス、モニター等)も含みます。

 

1.2. 法定耐用年数|サーバー用とその他で異なる

取得価額が確定したら、減価償却の計算を行います。国税庁「主な減価償却資産の耐用年数表」によると、パソコン(電子計算機)の法定耐用年数は下記の通りです。

 

【パソコンの法定耐用年数】

  • ふつうのパソコンの場合 4年
  • サーバー用として使用する場合 5年

 

1.3.「1台30万円未満」は「特例」で処理

ただし、実際には「特例」が定められており、価格帯により異なる処理を選ぶことができます。大ざっぱにいえば、低い価格帯ほど、簡易な処理が認められます。そこで、次項で価格帯ごとの処理内容について解説します。

 

2. パソコンの価格帯による減価償却の方法

2. パソコンの価格帯による減価償却の方法
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パソコンの価格帯ごとの減価償却の方法を整理すると、下記の通りです。

 

【価格帯ごとの減価償却の方法】

  1. 「1台10万円超〜20万円未満」のパソコン:一括償却資産
  2. 「1台10万円超〜30万円未満」のパソコン:少額減価償却資産の特例
  3. 「1台30万円以上」のパソコン:原則どおりの減価償却

 

なお、「1台10万円未満」のパソコンについては「消耗品費」として計上することができ、減価償却の処理をするまでもなく全額費用計上が認められます。

 

どの価格帯に属するか判断する際に、取得価額に「消費税」を含めるか否かという問題があります。「税抜経理」を採用している場合は「税抜価額」で判断します。これに対し、「税込経理」を採用している場合は「税込価額」で判断します。

 

たとえば、1台当たりの額が「税込30万円」の場合、「税抜経理」を採用している場合は「税抜価格27万2,727円」となるので「30万円未満」として扱うことになります。

 

それぞれの価格帯に応じて減価償却費の計上金額が変わるため、ルールの内容を正確に理解することで、税負担を抑えることにつながります。以下、解説します。

 

2.1.「1台10万円~20万円未満」のパソコン|「一括償却資産」として経費化

1台10万円〜20万円未満のパソコンは「一括償却資産」と呼ばれ、「3年均等償却」を利用することができます。つまり、3年に分け均等に減価償却費を計上できます。ただし「月割り」となります。

 

新品のパソコンを購入した場合の法定耐用年数は、前述のように4年または5年ですので、1台あたり10万円〜20万円で取得した場合は、この一括償却資産のルールで計算したほうが有利といえます。ただし、所定の要件を満たせば、次に紹介する「中小企業者等の少額減価償却資産特例」を利用することができます。

 

2.2.「1台10万円~30万円未満」のパソコン|「少額減価償却資産の特例」で経費化

取得価額30万円未満のパソコンについては、一定の要件をみたす「中小企業者等」であれば「少額減価償却資産の特例」により全額を一括して費用に計上できます。特例の正式名称は、「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」といいます。

 

「中小企業者等」の要件は、法人と個人でそれぞれ以下の通りです。

 

【中小企業者等の要件】

  • 法人:青色申告書を提出し、常時使用する従業員数500人以下で、資本金または出資金が1億円以下
  • 個人事業主:青色申告を行い、かつ常時使用する従業員が1,000人以下

 

少額減価償却資産の特例を利用できる限度額は1年度あたり合計300万円です。年間300万円以内であれば決算直前でも利用できるため、駆け込みの決算対策で利用されることが多いです。

 

なお、この特例自体は時限立法になっており税制改正のたびに更新がされていますが、期限付きとなっているので注意が必要です。現行ルールの期限は、2024年3月31日となっています。

 

2.3.「1台30万円以上」のパソコン|原則どおりの減価償却で経費化

2.3.1. 新品のパソコンの法定耐用年数

1台当たりの取得価額が30万円以上の場合は、原則どおり、法定耐用年数に則った処理が行われます。

 

すなわち、サーバー用パソコンであれば5年で償却され、それ以外のパソコンの場合は4年で償却が行われます。同じパソコンでも、使用頻度や消耗度合いに応じて耐用年数が異なっているのです。

 

2.3.2. 中古のパソコンの耐用年数

中古パソコンの場合は、耐用年数が短くなります。法定耐用年数を経過しているか否かによって、計算方法が異なります。

 

【中古パソコンの耐用年数】

  • 法定耐用年数を経過した場合:法定耐用年数×20%
  • 法定耐用年数を経過していない場合:(法定耐用年数–経過期間)+(経過期間×20%)

※ 1年未満の月数は切り捨て、計算結果が2年未満の場合は2年とする

 

たとえば、法定耐用年数(4年)を経過した「5年落ち」の中古パソコンの耐用年数を計算すると、法定耐用年数4年×20%=0.8年となりますが、2年未満なので耐用年数「2年」ということになります。

 

これに対し、「1年4ヵ月落ち」の中古パソコンの耐用年数は、(4年-1年4ヵ月)+(1年4ヵ月×20%)=2.93年となり、1年未満の月数を切り捨てて耐用年数が「2年」ということになります。

 

3. 減価償却の計算方法(定額法と定率法)

3. 減価償却の計算方法(定額法と定率法)
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「1台30万円以上」のパソコンについて減価償却を行う場合の計算方法について解説します。

 

減価償却の計算方法として実際に利用されているのは「定額法」と「定率法」です。以下、「定額法」と「定率法」のそれぞれについて解説します。

 

3.1. 定額法と計算例

定額法とは、取得価額に対して「定額法の償却率」をかけたものを減価償却額として「常に一定額」を償却していく方法です。基本的に、毎年同じ額を均等に償却します。ただし、減価償却の最終年には端数調整が行われます。

 

たとえば、取得価額50万円の新品のノートパソコン(法定耐用年数4年)を期首に購入したとします。定額法を用いて計算すると、

 

  • 3年目まで:50万円×償却率0.25=12万5,000円
  • 4年目:12万4,999円

 

ということになります。なお、帳簿上、最後に「1円」を残す処理を行いますが、これは、その資産が減価償却償却完了後も存在していることを示すためです。

 

3.2. 定率法と計算例

定率法とは、毎年の未償却残高に対して、「常に一定割合」の減価償却率を掛け合わせて減価償却額を算出する方法です。初年度がもっとも減価償却額が大きくなり、年が進むにつれ償却額が小さくなっていく特徴があります。

 

定率法による計算結果が「償却保証額」に満たなくなった場合、以降は毎年同額の償却額に変更します。

 

たとえば、取得価額50万円の新品のノートパソコン(法定耐用年数4年)を期首に購入した場合、定率法を用いて計算すると、

 

  • 1年目:50万円×償却率(0.5)=25万円
  • 2年目:25万円×償却率0.5=12万5,000円
  • 3年目:12万5,000円×償却率0.5=6万2,500円
  • 4年目:6万2,499円

となります。定率法を用いた場合も、帳簿上、最後に「1円」を残します。

 

3.3. 個人事業主が「定率法」を使用したい場合は税務署に届出が必要

上述の通り、一般には「定率法」の方が、早期に多くの減価償却費を計上できるので、有利とされています

 

ただし、個人事業主の場合、パソコンについては「定額法」が法定償却方法となっており、もし「定率法」を用いたいのであれば税務署に「減価償却資産の償却方法の届出書」を提出する必要があります。

 

これに対し、法人の場合は、パソコンの法定償却方法は「定率法」が指定されているので、そのような手続きは必要ありません。

 

4.「パソコンソフト」も減価償却できる

4.「パソコンソフト」も減価償却できる
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以上、パソコン(付属品も含む)の減価償却のルールを解説してきましたが、パソコンソフト(ソフトウエア)を購入した場合も、減価償却することができます。ソフトウエアは形のない「無形固定資産」ですが、いずれ「陳腐化」「時代遅れ」になるので、減価償却が認められているのです。

 

ソフトウエアは以下のルールで償却できます。ただし、パソコンと異なり、償却方法は「定額法」と決まっています。

 

【価格帯ごとの減価償却の方法】

  1. 「10万円超〜20万円未満」のソフトウエア:一括償却資産
  2. 「10万円超〜30万円未満」のエア:中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例
  3. 「30万円以上」のソフトウエア:原則どおりの減価償却

 

「30万円以上」のソフトウエアを減価償却する場合、償却期間は、購入したものについては「5年」、自社で研究開発したもの等については「3年」となっています。なお、「10万円以下」のソフトウエアは減価償却をするまでもなく「消耗品費」として一括して経費にできます。

 

まとめ

まとめ
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パソコンの減価償却の特徴は、期間(法定耐用年数)がサーバー用(原則5年)とそれ以外(原則4年)とで異なることと、価格帯に応じて異なる処理がなされることです。

 

「1台10万円~20万円未満のパソコン」の場合は、「一括償却資産」と呼ばれ、「3年均等償却」(定率法)を利用することができます。ただし、一定の中小企業者等であれば、「1台10万円~30万円未満のパソコン」について、年間合計300万円まで一気に全額を償却できる「少額減価償却資産の特例」を利用できます。

 

「1台30万円以上のパソコン」については、減価償却に則った処理を行います。その場合、「定率法」を採用すれば、初年度に大きな減価償却費を計上することができます。

 

中古パソコンの場合は耐用年数が別途計算され、法定耐用年数を経過したか否かによって異なる計算方法が用いられます。

 

なお、パソコンだけでなく、ソフトウェアもほぼ同じルールで減価償却の処理を行うことができます。ただし、計算方法は「定額法」と決まっています。

 

パソコンを購入する際は、性能やコストパフォーマンスに加え、価格帯による税務処理の違いも意識して選ぶことが大切です。特に、できるだけ早期に経費化したいのであれば、「1台10万円~30万円未満」のパソコンを選ぶことをおすすめします。

 

 

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