世界では非常識!? 断熱性能の基準がない日本の「窓」
高橋:柿沢先生は、わが国の住宅性能のなかで、特に窓の性能向上が重要だと指摘されていますね?
柿沢:日本の住宅は粗製乱造的に建てられてきて、特に断熱性能が世界と比べて著しく低いものになっているのは、これまで議論してきたとおりです。とりわけ住宅の断熱性能の一番肝になる部分っていうのは、よくいわれるように、窓をはじめとした開口部です。暖房の熱が外に逃げたり、夏の熱エネルギーが家のなかに侵入するのは、窓からがだいたい6割、7割を占めているわけです。そのため、多くの国では、図のように、窓の断熱性能の最低基準が定められていますが、日本には最低基準がない状況です。
そのため、日本の住宅では、当たり前のようにアルミサッシが使われています。アルミサッシは工場大量生産に向いていますが、木や樹脂に比べると1000倍以上熱を通してしまうので、断熱性能がとても低いわけです。ちなみに米国の24州では、アルミサッシの使用が禁止されています。このように、日本の住宅・建築物における窓の常識って、世界では非常識なわけですよね。
アルミサッシを使った住宅に住んでいる人は、皆さん感じていると思うんですが、窓際は薄ら寒いし、結露も生じる。結露は、喘息やアトピーなど健康への影響も懸念されますし、家の耐久性にも悪影響を及ぼします。また、ヒートショックリスクも高くなる。
そういう意味では、窓が、日本の住宅の住み心地の悪さの源になっているといえると思うんですね。ですから、先ほど断熱性能の問題も含めて、アルミサッシからのリプレースを進めていかなきゃいけないわけです。
断熱性はアルミの1200倍…木製サッシは地方を救うか
高橋:先生は、特に木製サッシの普及に力を入れていらっしゃいます。木製サッシの普及にはどのような意義がありますか?
柿沢:窓を高断熱化するには、樹脂サッシか木製サッシという選択肢があります。現在、大手サッシメーカーが普及させようとしているのは、樹脂サッシですよね。樹脂サッシのほうが、工場大量生産には向いているというメリットがあります。
ところが樹脂って、当然のごとく石油製品ですから、いうなれば「カーボンニュートラルを実現しよう」といって、「石油製品の樹脂サッシをどんどん使いましょう」というのは、どっかちょっとおかしいな、みたいなところがあるわけじゃないですか。なおかつ日本は森林大国だと、国土の6割、7割は森林だといって、森林・林業・木材業に湯水のごとく税金を投じて振興しようということをやっているわけですが、あんまり結果が出ているとはいい難い状況が続いていると思うんです。
そこで窓に着目をして、ぜひ木製サッシの普及をしていく。特に国産材を使った木製サッシの産業化に取り組んでいく、いうことが、カーボンニュートラル、建築物・住宅の省エネと、また森林・林業・木材業の振興等を同時に進めていく一つの大きな起爆剤になるんじゃないかというふうに思っています。
日本の年間の窓の生産量は1,150万窓といわれています。仮にその1割でも木製サッシになったら、どれだけの新たな木材需要が生み出されるか、国会で林野庁長官に質問したところ、「一定の仮定の下で計算すると、449,000㎥の木材需要になる。」という答弁が返ってきました。
449,000㎥というとイメージが湧かないかもしれませんが、隈研吾氏が設計した新国立競技場で使われた木材の220倍の木材の量ということになります。また岡山県の木材需要量が418,000㎥ですから岡山県の木材需要を上回るような需要が新規に生み出されるということになります。相当に大きな木材需要であるといえます。衰退の一途を辿ってきた森林・林業・木材業にとってきわめて有望なニューフロンティアといってもよいのではないでしょうか。
さらに木製サッシの普及には、農村漁村を豊かにする効果もあります。木製サッシは、1カ所の工場で大量生産はやりにくいのですが、山から木を切り出してその山すそに木製サッシの工場を設けて、1日100窓以下の少量生産をするような工場が一般的です。そのような工場があちこちにできれば、森林・林業地域に新たな産業と雇用が生まれるということになります。
イタリアやドイツはそのように森林地域の山すそに小規模な木製サッシ工場が点々と立地し、地域に産業と雇用を生み出しています。これも分散型の地域が豊かになる社会をつくることにつながります。