「住宅のランニングコスト」を意識しない日本の風潮
高橋:建築物省エネ法の改正とは別に、住宅品質確保促進法に基づく住宅性能表示制度で、従来は省エネ基準レベルの「断熱等級4」が最高等級だったわけですが、これが義務化されることで一気に最低基準に降格され、その上にZEH水準の断熱性能の等級5、さらにHEAT20のG2レベルの等級6、G3レベルの7が創設されます。
また、遅くても2030年までに、等級5レベルが義務化されるという方針も打ち出されています。この感じですと、等級5レベルの義務化もスムースに実現できそうですね。
逆にいうと、これから家を建てる、家を買おうとする方々は、省エネ基準レベルの住宅だとあっという間に最低基準を満たさない家になってしまうということですね。
一方で、住宅の性能を上げることを義務化していくと、家の価格が上がってしまうので、「マイホームの夢がつぶれちゃうよね」っていうふうにおっしゃる消費者の方々が少なからずいます。日本は、クルマは燃費性能で選びますが、住宅についてはランニングコストを意識しない風潮が強い。性能向上に伴う建築費増による住宅ローンの支払額の増額分よりも、光熱費の負担額の削減幅のほうが大きくなるのが一般的だと思うのですが、そのあたりの理解が進んでいないのも課題の一つだと思います。
高性能な家を増やすには、金融界の理解が必須
田嶋:それについては、ちょっと技術的かもしれませんが、ファイナンスのほうとして、「ローンの枠を、そこは分けてやることができたらいい」ということをいっている専門家がいましたね。性能を上げれば、建築費は当然上がるんですよ。ただ、それを当然、薄く広く返済していくのがローンなので、金融界がそれを理解して仕組みを作ればいい。道路照明のLED化のリースの話と同じですよね。いろんなやり方があると思います。いずれにしたって、中長期ではペイするんだから、本来はやらない理由はないんですよ。
高橋:金融機関の役割は重要だと思います。個人の住宅ローンに限らず、意識の高い賃宅住宅のオーナーが高断熱の賃貸住宅を建てようと思っても、金融機関の理解が得られずに、なかなか実現できないでいます。これも日本に高断熱の賃貸住宅が供給されない要因の一つだと思います。
田嶋:賃貸住宅については、どのぐらいランニングコストとしての光熱費の支出がある住宅なのかは、普通の素人にはわからない。スーモ等の物件情報サイトには、家賃や管理費は表記されているけど、予想光熱費というのはないわけですよ。国土交通省はいま、光熱費の表示制度を検討しているというんだけど、すぐには出てこない。予想光熱費が表記されるようになると、家賃は安いけど、これだけ光熱費がかかるとわかるから、たぶん消費者の行動が、大きく変わるんじゃないですかね。
そうすると、オーナーさんが借りる人に快適な家を提供したいと思えば、建築費を多少余分にかけて、その分家賃高めに設定する。でも借りる人は家賃増額分以上に光熱費が下がるからいいかという判断が可能になるかもしれない。
鳥取県の平井知事は、その辺に着目されて、制度を独自に導入された。鳥取県の資料では、15年で回収できるとなっている。だけど、これから燃料費がさらに上がってくると、もっと断熱をしっかりした家のほうがお買い得感が高まるはずです。あとは、そういう理解が、広まるのに、もう少し時間かかるのかなと感じます。
高橋:その通りだと思います。当社も独自にシミュレーションおこなっているのですが、性能を高めると、建築費が増えますから毎月の住宅ローン返済額は増えるわけです。でも、それよりも光熱費の削減額のほうが大きいんです。
ですから、さらにいえば、何年で回収できるっていう話じゃなくて、一定期間以上の住宅ローンを組む前提だったら、初年度から性能高めたほうが負担は軽くなるんですよ。さらにローン完済後は、光熱費削減分のメリットをすべて享受できるので、老後のゆとりにつながるわけです。
賃貸住宅でも、おそらく、この経済的なメリットをオーナーと借り手でシェアする仕組みの構築が可能だと考えています。