性能が低く、資産になりにくい日本の住宅
我が国の住宅性能が他国に比べて、非常に劣っており、結果的に、健康、快適性、経済性において、居住者が不利益を被っていることについて、これまでも繰り返し述べてきました。
一方で、脱炭素社会に向けて家庭部門(住宅)の省エネ性能向上が喫緊の課題であり、国の政策の方向性も、これから急激に変わろうとしています。
そこで今回は、住宅の性能向上に積極的に取り組んでおられる柿沢 未途 衆議院議員(自由民主党 東京15区)と田嶋 要 衆議院議員(立憲民主党千葉1区)のお二人に、これからの我が国の住宅性能に係る政策の方向性を中心にお話を伺いました。
これから家を建てる方々は、国の今後の政策の方向性を踏まえて計画を進めることが、資産価値の落ちない住まいづくりのためには重要だと思います。これから家を建てる方にとって、とても参考になるお話が聞けたと思います。
田嶋 要
1961年生まれ。東京大学法学部卒業。1991年ペンシルベニア大学ウォートンスクール修了(MBA)。NTT、世界銀行グループ国際金融公社などを経て、2003年11月、衆院千葉1区で初当選の後、7期連続当選。
2010年9月、経済産業大臣政務官に就任。東日本大震災後の2011年6月から3か月間、政府の原子力災害現地対策本部長として福島市に常駐。
現在、衆議院環境委員会野党筆頭理事、地方創生特委員。立憲民主党環境エネルギー調査会会長を務める。
柿沢 未途
1971年ベルギー生れ。江東区立数矢小、麻布中・高、東大法卒。NHK記者として1998長野冬季オリンピック・パラリンピックを取材。2001年より都議2期、2009年より衆院議員5期。現在、衆院国土交通委員会理事。自由民主党。著書「柿沢未途の日本再生」(東川社)で尾崎行雄記念財団ブックオブザイヤー大賞受賞。
高橋:今日は、お忙しいなか、ありがとうございます。
今回、このような機会を頂戴することになったのは、先日、田嶋先生から欧米の国々に比べて、日本の累計の住宅投資が資産として積み上がっていないというお話を聞く機会をいただいたのがきっかけでした。その際に拝見したデータが、私には非常に衝撃的でしたので、このような機会を頂戴することになりました。ですので、まずは田嶋先生にこのデータについてお伺いしたいと思います。
田嶋:この資料は、今年春の予算委員会で使わせていただいたものです。いま、高橋さんも衝撃を受けたということでしたが、私にも衝撃的だったんですね。
このデータは、少し前に国土交通省が外部の民間の研究者に委託をして作られたものです。住宅投資額の累積額と住宅資産額を日米で比較したものです。
米国では、新築の家も、それから中古のリフォームも、住宅に投資した額に連動するかたちで、全体としての住宅資産の価値が上がっています。それに対して日本では、住宅投資は積み上がっているのに対して、住宅資産額は何十年も価値がほとんど上がらず、横ばい状態になっています。
そのため、住宅投資額の累計と住宅資産額がワニの口のようにめちゃくちゃ乖離をしており、その差は500兆円以上にものぼっているんですね。このデータがさりげなく国土交通省から出されたのですが、私は、これは国土交通省の成績表じゃないかなと思ったんです。
日本の住宅っていうのは、国民の知らない間に、お金ばかりかけて資産は増えないという、いってみれば、金融資産であれば信じられないようなことが起きているのです。
ただ、多くの方々にとっては、いざ自宅を売却するときに評価額の低さにショックを受けるようなことはあっても、日常的にはこの事実はあまり意識されるものではないのではないかと思います。
とはいえ、米国との比較だけでは、ひょっとしたら米国が珍しいのかなと思ったので、国土交通省に「他の国はどうですか」と聞いてみました。ところが「米国以外との比較データはない」っていわれたんですね。そんなのすぐ調べればできるんじゃないかなと思ったので、国会図書館に聞いたら、すぐ翌日に出てきました。それがもう一つのイギリス・フランス・ドイツとの比較資料です。
結論としては、ドイツもイギリスもフランスも、おおむね米国と同じなんですね。投資した額に見合って資産が積み上がってきているわけです。主要4か国との比較でも、日本だけが例外的に資産が増えていないということに、私は二度ショックを受けたわけです。
新築志向が強く、家を消費財的に考えている日本人
高橋:なぜ、日本だけがこのような状況になっているのだと思われますか?
田嶋:私の推測ですが、国民自身が自分の家の資産価値をあまり意識してこなかった。あるいは、ずっと終の棲家だったら、売るタイミングっていうのは何十年もあとになるので、なかなか顕在化しない。それから、ホームインスペクションが日本では普及しておらず、おそらく自宅がどのぐらいの価値があるのかってことを、特に戸建ての場合は、あまり意識しないのかなっていう感じがしますね。
もう一つは、税制とか減価償却にかかわる法定耐用年数が、例えば木造住宅では22年と短いことの影響も大きいのではないかという話も専門家からは聞いています。
日本では住宅の多くが、長期にわたる資産価値を重視するよりも、耐久消費財的に作られ、売られてきたんではないかと思います。だから、買った瞬間に3割減価するってよくいいますよね。
高橋:確かに、家を購入し、鍵の引き渡しを受けて玄関を開けた瞬間に、買った価格から価値は大きく減価してしまうといわれますね。
法定耐用年数については、物理的な耐用年数とは異なりますが、実際の住宅マーケットでも、築20年の戸建住宅は、建物の価値はほとんど評価されず、土地だけの評価になってしまうのが一般的ですね。
田嶋:日本の家っていうのは、いままでは使い捨てだったのですよね。私はアメリカに5年ほど住んでいたのですが、アメリカの方は「家を建てる」ってあまりいわないんですよ。「家を買う」っていうんです。「美しいきれいな家が見つかった。だから、それを買う」って、こういう言い方をする。確かに、既存のいい家を探して、それを中古で買うっていうのがアメリカでの常識です。流通している住宅の8割以上は既存住宅で、新築が占める割合はとても低いんですね。対して日本は、生涯の夢として、自分で更地から建てる、あるいは建て売りを買うということになっているので、新築志向がとても強い。なので、あまり中古住宅には意識がいかず、中古住宅市場が発達していないのかなっていう感じがするんです。
高橋:なるほど。私はこの資料を見て、短期間でスクラップ&ビルドを繰り返すことで、資産にならない住宅に対して各世代が住宅ローンを背負い続けている。そのことが、我々日本人が他の国々に比べて、GDPの割になんとなく豊かさを実感できていないっていうことにつながっているのではないかと感じました。
法定耐用年数についてのご指摘がありましたが、もう一つ、日本の住宅市場で既存住宅が評価されない要因の一つに、「既存住宅は寒いのでいやだ」という性能面についての声も耳にします。
田嶋:そうですよね。アメリカの暮らしでつくづく思ったのは、断熱性能の高い家に住んだときの朝、目覚めたときの空気感が違うんですよね。これ、言葉でなかなか伝えられなくて。
この間、ロンドンに駐在している私の会社時代の部下から、私が住宅の性能向上に取り組んでいることを知って、「私もロンドンに暮らして、高断熱住宅の快適さをはじめて知りました」ってメールが来たんですよ。だから、これって実感しないと、体がなんとなく感じるぬくもりというか、それ、説明しにくいと思うんですよね。