老後の豊かさの定義を見直そう
「豊かさとは、多くの富を所有することにあるのではなく、少ない欲求のみを持つことにある」
「賢者は、ないもので嘆かず、あるもので楽しむ」
これは、古代ギリシャの哲学者エピクテトスの言葉です。
じつは、同じような言葉を、中国の思想家の老子が残しています。
「足るを知る者は富む(知足者富)」
満足することを知っている者は、たとえ貧しくても精神的には豊かで幸福だということです。
今まで、会社員の多くは満員電車で会社に通い、そこで身を粉にして働き、家に帰ると疲れ切ってしまって、風呂に入って食事をしたら寝るという生活を強いられてきました。ですから、妻に「フロ」「メシ」「ネル」しか言わない夫が増え、そんな夫が定年になって家にいるので、離婚したいという妻が急増した時期がありました。
けれど、状況はコロナ禍で、大きく変わりました。
■収入は減っても精神的な豊かさが手に入る時代
リモートワークで通勤時間が減り、残業もなくなりました。ストレスの原因ともなっていた、嫌いな上司や部下との接触も減りました。週休3日という企業が増えただけでなく、みずほ銀行のように、週休4日でもいいというところも出てきました。
ただ、その代わりに、収入は減っています。その収入を、どうやって補っていくかは別稿で詳しく述べますが、リモートワークが、ゆとりの時間を持たせてくれたのです。
徳島県の山の中に、神山町という小さな町があります。県庁所在地の徳島駅から、バスで約65分。人口が5000人を切る山の中の小さな町に、最先端のIT企業のサテライトオフィスが集まっています。
2004年に、ケーブルTV兼用光ファイバー網が整備され、2010年頃から、ITベンチャー企業が町の古民家をサテライトオフィスとして活用し始めました。
また、20年前から国内外のアーティストを招いて夏の2ヵ月ほど滞在してもらい、作品を制作してもらう試みも続けてきました。その結果、外国人が住み着き、おしゃれなビストロやカフェができました。オランダから来て醸造所を開く人やイギリスから来て徳島市の中学校で英語を教える外国人なども移住し、小さな町なのに外国人比率が高く、国際的になりました。
この町に住んでいるITのサテライトオフィスの方に聞くと、「古民家一軒月3万円で、畑付き。早朝に畑の世話をしてから歩いてオフィスに。昼食は家に帰って家族と食べ、午後の仕事が終わったら川で釣りをして、夕食は家族や友人たちとワイワイとホームパーティなんかをしています」とのこと。
やっている仕事内容は東京の本社とほぼ同じなのだそうですが、満員の電車通勤も不毛な会議もないので、ストレスがなく、子育てにも最適な環境だとのことでした。
子供と触れ合う時間、妻と会話する時間、家族で楽しむ時間、そうしたものの大切さを再認識させ、ワークライフバランスを改善し、時間の価値を高めてくれるのがリモートワークかもしれません。今まで仕事と両立できなかった育児や介護、病気療養などが、離職しなくても可能になったのも大きなメリット。
総務省の「通信利用動向調査」(2020年)を見ると、2020年にテレワークを導入している、もしくは導入予定がある企業は58.2%。2018年が26.3%でしたから、急激に伸びていることがわかります。
収入は減っても精神的な豊かさが手に入る、そんな時代は遠くない!
そう考えれば、「今の仕事をしながらキャリアを磨き、好きなところに住もう」という目標ができて、そのために会社を徹底的に利用しようと思えるかもしれません。
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