前回は、自分と異なるタイプの後継者に事業を引き継ぐ際の留意点を説明しました。今回は、事業承継を機に抜本的な業務効率化を行う方法を見ていきます。

非効率な作業を慣習的に行っている中小企業は多い

多くの中小企業において、帳票はずいぶん長く同じものを利用しているのではないかと思います。20年、30年変わっていない会社もざらにあるでしょう。

 

しかし現実に目を向けると、5年もたてばビジネス環境には変化が生じ、それに合わせて業務内容や手順も変えているはずです。そのもっともわかりやすい例は、インターネットの登場でしょう。社内のIT化により、多くの事務処理や報告・連絡・相談がパソコン上でやり取りされるようになりました。

 

それに伴い、慣習的に使われてきた帳票の中にも不要な項目が出てきたり、業務そのものが形骸化したり、といったことがいくつも起きていると思います。従業員の中には、それに気づき、非効率な作業を慣習的に行っていることに対し反感を持っている人がたくさんいるかもしれません。

業務改革を実行するのは、あくまでも「後継者」

ではなぜそれを指摘する声が上がりづらいのか。

 

それは、帳票を変えたり廃止したりするのはひとつの業務の流れを変えることに他ならず、業務の改革は、現場では行うことができない経営的判断のひとつだからです。従業員の立場になれば、社長にわざわざ直訴して、反感を買うリスクを承知で業務を変えるくらいなら、二度手間の作業であっても文句を言いながらこなしてしまうほうがずっと楽でしょう。

 

だからこそ、帳票をはじめとした「古い業務の無駄」を指摘し、変えていくのは、経営者しかいないのです。事業継承というのは、これまで慣習的に行われてきたようなやり方を思い切って変えるチャンスです。業務を全般的に見直し、無駄をなくして効率化することができれば、人件費が減るためコストカットにもつながります。

 

とはいえ、業務の改革を実行するのは、あくまで後継者でなければなりません。経営者の仕事は、事業継承のために業務を改めて見直した際に浮かび上がってくる無駄や非効率を指摘し、それを後継者に伝えることです。もしそこで具体的な改革に着手してしまえば、事業継承は滞り、結局は経営者でいる期間が長期化します。それでは本末転倒です。業務改革を実施するかどうかの判断は、後継者にゆだねましょう。

本連載は、2015年10月25日刊行の書籍『たった半年で次期社長を育てる方法』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

たった半年で次期社長を育てる方法

たった半年で次期社長を育てる方法

和田 哲幸

幻冬舎メディアコンサルティング

中小企業は今後10年間、本格的な代替わりの時期を迎えます。 帝国データバンクによると、日本の社長の平均年齢は2013年で58.9歳、1990年と比べて約5歳上昇しました。今後こうした社長たちが引退適齢期に突入します。もっと平…

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