「患者志向の診療」が病院を赤字にする
ようやく外来時間が終われば、医師は息をつく間もなく病棟へと向かいます。患者は病棟にもたくさんおり、病棟回診や検査指示を出す必要があるからです。
外来後すぐに長時間におよぶ手術に臨むことも珍しくはありませんし、院内の委員会活動やミーティングに時間を割くこともあります。もし研修医を指導する役割を担っていれば、教育にもある程度の時間を注ぐ必要が出てきます。
医師はこうした目まぐるしい事項に対応しながら、合間の時間で書類作成などの事務処理までこなしているのです。
いくら医療従事者として高い理想を掲げていても、こうした激務を続けていればいつかは疲弊し、時には体を壊してしまうかもしれません。そうなれば、医療機関は知識と技術、熱い志をもつ貴重な人材を失ってしまいます。
しかも、医師が苦労して外来に時間を割いても診療報酬は診療所の場合よりも安く設定されています。これは中核病院から本人の住まいに逆紹介を促すための設定ですが、患者自身が大病院志向である限り、なかなかスムーズにはいきません。
結果、積極的に外来に対応しても、医師や看護師の忙しさだけが増して収益はさほど上がらないという状況が継続します。医師・看護師の激務は毎日のことで、終わりの見えない疲弊感は任務へのモチベーションを大きく下げかねません。その先で医師や看護師が取るのは、おそらく退職という決断です。
その後、病院経営者は早急に替わりとなる人材の採用活動を行わねばなりません。当然、採用活動にはコストが伴います。
外来に人が溢れていることが医療機関にとって全面的にプラスではない理由は、収益にはさしたるプラスになっていないうえ、人材を失うリスクもはらんでいることにあります。
入院患者の「ついで診療」が病院を赤字にする
入院するまでは「仕事の都合がつかない」「お金がない」などと理由をつけてためらっていても、いざ入院を決めると「せっかく入院したのだから、この機会に悪いところは全部なんとかしてしまおう」とばかりに、積極的に医療に関わろうとする患者も少なくありません。
ポリープ除去のために入院した患者が「実は糖尿病の気があるんです。目も最近見えにくくなってきたので、気になっています」というように、あれこれと不調を医師や看護師に訴えるという構図です。
「入院中に気になるところをすべて治療してしまいたい」と患者に頼られれば、力になりたいと思うのが医療従事者かと思います。
すべての医療機関が出来高制を採用していた頃であれば、どのような追加治療を行っても、治療を行った分だけ病院は報酬を得ることができました。患者は治療を受けることができて安心し、医師・看護師は患者の役に立てたことに喜び、そして病院経営は潤います。まさしく三方に良い状態がつくられていました。
しかし2003年以降、急性期の患者を治療する病院は、DPC制度(包括医療費支払い制度)下で診療報酬を算出しなければならなくなりました。この2003年を境に、〝ついで〟診察が急性期病院を赤字経営に陥れる要因になってしまったのです。
山本 篤憲
株式会社アリオンシステム
代表取締役社長
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