テレワークをきっかけに暮らし方を見直し、地方移住や首都圏近郊への転居を考える人が増えています。ところが、思ったようにはうまく転職活動が進まず断念する人や、転職はしたものの失敗して後悔する人が後を絶ちません。それはなぜでしょうか。キャリアコンサルタントの江口勝彦氏が解説します。

大事なことはUターン転職後の人生設計

⑥理想と現実とのギャップ

転職そのものはできたとしても、地方暮らしに理想や良いイメージばかりをもっている人は、現実とのギャップに戸惑いこんなはずではなかったと後悔することになりがちです。

 

地方暮らしというのは、都会よりも自然に近く大都市の競争社会から離れてゆったりと生活ができそうですが、実際にはそういうキレイごとばかりではありません。

 

地方の中小企業ではUターン人材に対する期待が大きいので、都会にいた頃よりも責任のある仕事を任されることがあります。また人材不足のためにみんなが協力しながら人員の足りないところを補い合っていることも多いため、専門以外の仕事を頼まれることも増えます。都会暮らしの頃よりむしろ忙しく働いている人もいるのです。

 

そういう心構えのないまま転職すると、給料は変わらないのに仕事が増えたなどと不満を抱くことになり、うまくいきません。

 

また自分が10代までを過ごした時代と、10年以上を経た今とでは、やはり人や街は変わります。自分自身のものの見方や価値観も当時とは変わっているはずです。

 

例えば都会では隣人との縁は薄いことが多く、隣に住む人がどこに勤めていてどんな生活をしているかはあまり気にしません。しかし、田舎に行くほど人間関係は狭く濃くなります。

 

近所の人がどこから引っ越して来たのか、どこの会社に勤めているのか、旦那があの会社であの年齢なら年収はいくらくらいだろうとか、奥さんは東京出身らしいとか、子どもは何歳でどんな子なのか……といった情報がほぼ筒抜けです。「田舎の噂は高速インターネットより速い」という笑えないジョークもあります。

 

いい意味では人と人との結び付きが深いといえますが、ネガティブな言い方をすれば詮索や干渉が気になるということです。

 

近所や会社の同僚と付き合いをするうえでの地元ならではの暗黙のルールがあるなど、人間関係に悩むというのはよくある話です。特に都会から地方について来た配偶者のほうは、何かと勝手が違うので戸惑うことが増えます。配偶者が地元になじめないことで夫婦関係がギクシャクしたり配偶者が心身に不調をきたしたりするようなことがあれば、幸せなUターン転職とはいきません。

 

■ビジョンなき転職活動は失敗に終わりやすい

 

単に故郷に帰りたいとか地元で働きたいというだけでは、家族を説得できないし、本当に自分に合った仕事とも出合えないものです。転職活動の成果が出ない、転職してもうまくいかないという場合は、ここで挙げた6つの要因のどれが当てはまっていないかを点検する必要があります。

 

Uターン転職というのはただの転職とは違い、自分にとっても家族にとっても大きく環境が変わります。生活や人生が変わるときというのは、大きなストレスが掛かってきます。ストレスを無視して前に進めば、そのときは何とかなっても後々歪みとなって表面化し、自分や家族を苦しめることにもなりかねません。引っ越しうつや転職うつというのが現実にあります。

 

どうしても避けられないストレスもありますが、可能な限りストレスは避け、家族全員笑顔で「Uターン転職してよかった」と言いたいものです。どうしても転職先の収入などの条件に関心が偏ってしまいがちですが、本当に大事なものは、転職したあとのビジョンや人生設計にあるのです。

 

江口 勝彦
株式会社エンリージョン 代表取締役
キャリアコンサルタント

 

 

本連載は江口勝彦氏の著書『幸せのUターン転職』(幻冬舎メディアコンサルティング)から一部を抜粋し、再編集したものです。

幸せのUターン転職

幸せのUターン転職

江口 勝彦

幻冬舎メディアコンサルティング

30代になると結婚や子どもの誕生、マイホームの購入、親の介護などさまざまなライフイベントを迎えます。 そのタイミングで都会からのUターン転職を考える人もいますが、年収やキャリア形成の不安から「自分が働ける場所はな…

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