(※写真はイメージです/PIXTA)

TPPや日欧EPA、アメリカとのFTA、RCEPまで含めて、ありとあらゆる経済連携協定にすべて加盟している国は、日本しかありません。日本の凄さはこうした自由貿易や経済連携協定のハブになる国なのです。渡瀬裕哉氏が著書『無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和』(ワニブックス)で解説します。

RCEPは中国を中心とした経済連携協定

実は、日本に住んでいると、こうした枠組みの必要性は実感しづらいものです。筆者は以前、東南アジアの人たちも含めた国際会議に出席したことがあります。マレーシアで行われた経済会議でしたが、そこでTPPに参加している地域の人たちの話を聞くと、「私たちの国にとっては、TPPはとても良い体制だ」と言っていました。

 

なぜかというと、TPPによって先進国と同じようなルールを、他の国と一緒になってきちんと決めることができるので、彼らの国の役人たちの腐敗がなくなって素晴らしいというのです。

 

日本人から見れば当たり前のようなサービスや投資に関するルールでも、最近急速に経済成長している新興国は、政府の役人への賄賂や不合理な制度がまだまだ横行していたりするのです。それを「TPPに入るためには、そういうのは直していかなければいけませんよ」と言える、それがすごくいいよね! という話を東南アジアの国の人たちはしているのです。彼らとしては、自分の国の改革をするのにもTPPは活用できるのです。

 

日本はすでに先進国ルールで商売をしてきたので、基本的にそうした国政改革のメリットは新興国側にあります。そして投資をされる側の新興国の改革によって、日本が投資するときも安心して商売ができます。さらに日本が投資して新興国で生産したものを日本で売りたいときに、関税がかからないという利点もあります。

 

自由貿易のメリットは、それぞれの国の特色を生かした産業で商売ができることです。各国ごとに気候や土地の違い、歴史や国民性の違いなど、多様な特色があります。このため、国ごとに得意なこと、不得意なことが違います。そこで、その国の得意なことに投資をして、得意なことをやってもらいましょう、それが一番みんなハッピーになれますね、ということなのです。

 

不得意な人たちが不得意なことをすれば、良いものはできないし、生産性も上がらないから豊かにならない、これはみんなの不幸です。それなら、みんなでルールを決めて、それぞれが得意なことをして交換すればよいのです。

 

とはいっても、無償の善意のお友達関係や慈善事業ではなく商売です。投資は利益を上げるためのものですから、不合理な制度によって突然投資先の設備が接収されて利益が得られないリスクがあるものに進んで投資することはあり得ません。一方で不正な労働環境で利益だけ追求してもいけません。そこで、「交易にまつわる投資や労働、金融など色々なルールを整備してもらって、きちんとお付き合いをしましょう」というのがTPPの主旨です。

 

日本の中にも、日本の産業が駄目になると勘違いしている人が多いのですが、日本人が市場の成長著しい新興国の人たちと取引したり、新興国の成長産業に投資したりする際に、安心して商売ができる環境づくりなのです。特に先進国がライセンスフィーを安定的に確保するための知的財産権の保護などは、TPPにおいて重要な論題でした。

 

TPPとは別に、アジアでは2020年11月、RCEP(Regional Comprehensive Economic Partnership:地域的な包括的経済連携協定)という仕組みもできています。これはASEAN(東南アジア諸国連合)十か国と日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランドが参加しています。アメリカがTPPから離脱したことで、加盟国人口・GDPの面でRCEPの方が大きな規模となりました。

 

TPPとRCEPの大きな違いは、RCEPが事実上、中国を中心とした協定となっていることです。このため、腐敗や取引に対する政府の干渉などに対して、有効性はあまり高くないのです。たとえば、最近はその中国がTPPへの参加検討を匂わせていますが、TPPに参加するなら中国は国営企業の改革を要求されます。各国の民間企業の間で公平な競争ができなくなるからです。

 

他方、RCEPでは中国が中心ですから、政府の不合理な力が自由貿易に干渉するような仕組みがある程度維持されてしまいます。彼らにしてみれば、やらないよりはマシぐらいのもので、「先進国で運用している水準のみんなで決めたルールをどこまで守れますか?」という前提のTPPとは本質的な枠組みの違いがあるのです。

 

次ページ世界の経済連携協定に参加する日本の未来

※本連載は渡瀬裕哉氏の著書『無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和』(ワニブックス)から一部を抜粋し、再編集したものです。

無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和

無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和

渡瀬 裕哉

ワニブックス

現在の日本の政治や経済のムードを変えていくにはどうしたらよいのでしょうか。 タックスペイヤー(納税者)やリスクを取って挑戦する人を大事にする政治を作っていくことが求められているといいいます。 本書には「世の中に…

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