ダイエット成功のカギは「カロリー」ではなかった
太りやすい体質、太りにくい体質というものが、マイクロバイオータの影響を受けるという事実は何を意味するのでしょうか?
これは、これまでのダイエットの常識であった「カロリーイン、カロリーアウト」の法則を根底から覆すことに他なりません。これまでの栄養学の大原則であったとも言える「摂取カロリーから消費カロリーを引いたものがマイナスになれば体重は減る」という単純な法則が当てはまらないことが分かってきたのです(【関連記事:カロリー制限をしても「実はあんまりやせられない」?「栄養学の常識」が変わりつつある】を参照)。
マイクロバイオータが食事に含まれる栄養素の吸収率や脂肪細胞への貯蔵率に影響を与えるということは、同じカロリーの食事をしても、マイクロバイオータの状態が違えば、肥満するかどうかが変わってくるということです。
最初にお話ししたように、摂取カロリーや糖質、脂質の摂取量が肥満度と相関しない原因としては、マイクロバイオータが大きく影響しているということです。
もちろん、だからといって、何を食べても肥満しないということではありません。食事の内容に気をつけることは大切ですが、それ以上に、マイクロバイオータの状態が肥満するかどうかに影響を与えるということです。
「やせ菌」を増やすには「食物繊維」が重要だが…
では、「やせ菌」を増やすためにはどうすればいいのでしょうか?
賢明な読者は、今回の記事の流れから答えの察しがついていると思います。最初に、肥満率は食物繊維の摂取量の低下と関連しているということを書きました。「やせ菌」が増えるために必要なのが食物繊維なのです。食物繊維を多く摂ること自体が脂質や糖質の吸収を抑える作用がある上に、「やせ菌」であるバクテロイデス菌の量も増えることで、さらに脂質や糖質の吸収率を下げるのです。
このように食事の内容によって、マイクロバイオータの状態が変わり、身体全体の健康状態にも影響を与えるということが分かってきたのです。
■内分泌臓器としての脂肪細胞の働き
では、肥満の原因とも言える脂肪細胞の働きとマイクロバイオータとはどのような関係があるのでしょうか?
脂肪細胞はこれまでは、余分なエネルギーを中性脂肪の形で蓄える貯蔵庫としての働きしかないと考えられていました。しかし、体内に極微量しかない「生理活性物質」を測定する技術が発達するにつれて、脂肪細胞からも生理活性物質が分泌されることが分かってきたのです。生理活性物質はサイトカインとも言われ、生体の生命活動や生理機能の維持および調節に関わる化学物質です。
そして脂肪細胞は「アディポカイン」という生理活性物質を分泌していることが分かってきました。
これは、「アディポ(adipo-)=脂肪の」という言葉と、「サイトカイン(cytokine)=細胞から分泌される生理活性物質」とをくっつけた造語です。
食事で余分なカロリーを摂った場合、私たちの身体はカロリーが不足したときのために中性脂肪という形で、脂肪細胞に蓄えます。
やせた人が余分なエネルギーを脂肪として蓄積するときには、脂肪細胞が活発に細胞分裂をして、新しい脂肪細胞を数多く作り、それぞれに少量の脂肪を溜めていきます。
そして、脂肪細胞から「アディポネクチン」という動脈硬化を予防する効果のあるアディポカインや、食欲を抑える作用がある「レプチン」も分泌されるのです。すると、食欲が低下し摂取するカロリーが減ることで、蓄えられていた脂肪がエネルギーに変換され、脂肪が燃焼し肥満を防止します。どこまでも脂肪細胞が増えないようにフィードバックがかかるのです。この状態は善玉の脂肪細胞と言われます。
ところが太った人では、脂肪細胞は細胞分裂をすることができず、数少ない脂肪細胞に無理やり脂肪を詰め込むため、脂肪細胞が膨張します。中性脂肪をたくさん蓄え膨脹した脂肪細胞は悪玉化して、膨脹した脂肪組織では、TNFαやIL-6といった炎症性サイトカインが増える一方、善玉であるアディポネクチンなどの抗炎症性サイトカインの産生が減少します。これらの炎症性サイトカインは動脈硬化を促進したり、インスリン抵抗性を高めたりする作用があります。
つまり、余分に摂ったカロリーの蓄え方は一つではなく、脂肪細胞が細胞分裂して蓄える場合と、細胞自体が膨脹して蓄えられる場合があることが分かってきました。そして、脂肪の蓄え方によって、脂肪細胞から分泌されるアディポカインの種類も変わるのです。やせた人の脂肪細胞は善玉のアディポカインを出すので、一定のところで体重が減るのに対して、太った人では、フィードバックが利かなくなるどころか、どんどんと太るサイクルが強化されるということです。