カロリー制限をしても「実はあんまり痩せられない」?「栄養学の常識」が変わりつつある【医師が解説】

カロリー制限をしても「実はあんまり痩せられない」?「栄養学の常識」が変わりつつある【医師が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

1950年代からの分子生物学の発展に伴って、これまでの医学の常識が大きく変化しました。それに伴って従来の栄養学にも、修正しないといけないことが出てきています。まずは従来の栄養学の考え方について見ていきましょう。※本連載は、小西統合医療内科院長・小西康弘医師による書下ろしです。

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医学の発展に伴い、「栄養学の考え方」も激変

従来の栄養学は、「カロリー中心の栄養学」「栄養バランス中心主義」だったといえます。3大栄養素(炭水化物、タンパク質、脂肪)が主役で、カロリー計算を中心とする「やせるためにはカロリー制限をしましょう。栄養はバランスよく摂りましょう」という考え方でした。しかし、医学の発展に伴い、これらの常識も変わってきています。

 

そして、この古い考え方に基づいた栄養指導が、残念ながら今でも広く医療の現場で行われています。では、その考え方のどこがどう間違っているのかについて見ていきたいと思います。

従来の栄養学における常識①カロリーと体重の相関性

■「食べなかった分、痩せる!」とはならない

従来の栄養学の考え方では、肥満や糖尿病の人などに対しては、運動や食事でのカロリー制限をするように指導されてきました。しかし、少々運動した程度や、食事で取るカロリーを減らしても体重は減らないということ分かってきたのです。

 

私たちが消費するカロリーのうち、60-70%は「基礎代謝」といわれるものです。基礎代謝とは身体を維持するために消費されるカロリーです。寝ているときでも心臓は動いていますし、呼吸をしています。そのため、何もしないで横になっていてもカロリーは消費されます。1日2000Kcalを摂取している人は1200-1400Kcalが基礎代謝で消費されることになります。

 

食事でカロリー制限をしても、その分、基礎代謝が下がり、消費されるカロリーも減るため、体重は減らないということが分かっています(※)。その証拠に、1990年から20年間にわたって行われたアメリカの大規模な調査で、「摂取カロリーと体重の増加には相関関係はない」という結論が出ています。この調査期間中、アメリカでは肥満は増え続けているのに、人々の摂取カロリーにはほとんど変化は見られませんでした。

 

※ Corby K Martin et al., 「カロリー制限が安静時代謝量および自発的身体活動に及ぼす影響」Effect of calorie restriction on resting metabolic rate and spontaneous physical activity, 2007.

 

イギリスでの研究では、摂取カロリーは減っているのに肥満は増えていたという結論さえ出ています。これまでの常識であったカロリー制限は、少なくとも肥満の解消には有効ではないと証明されているのです。

 

■並みの運動量では、カロリー消費量も「微々たるもの」

また、ダイエットには運動が重要だといわれますが、30分のエアロビクスをして消費されるカロリーは150Kcalです。30分の水泳で180Kcalです。ご飯1杯(160g)のカロリー250Kcalにも及びません。

 

中等度の有酸素運動を1日60分、週6日間行った減量効果をみたある研究では、男性の平均体重96.1kg、女性77.9kgが1年後の体重減少量をみたところ、男性で1.8kg、女性で1.4kgでした。

 

ダイエット目的で一生懸命運動されている人にはとても残念な結果だといえるでしょう。もちろん運動の効用はダイエットだけではないので、運動が必要ないということではありません。

 

従来の栄養学でダイエットをするためには、摂取するカロリーよりも消費するカロリーを増やすことが大原則でした。そのために「摂取するカロリーを減らす」か「運動して消費カロリーを増やす」という方法が取られてきたわけです。これまで示してきたように、そのどちらも科学的にはエビデンスがないということがはっきりと分かっています(だからといって無制限に食べて運動をしなくてもいいということではありません。あくまでダイエットに意味がないということで、それ以外の効用を否定するものではありません)。

 

今まで固く信じられてきた「カロリー神話」は、ことごとく崩壊しているのです。つまり、従来の栄養学の考え方が通用しなくなっているということです。

従来の栄養学における常識②「栄養はバランス良く」

■「栄養はバランス良く摂るべき」といわれるようになった歴史的背景

これまでの栄養学を支えてきたもう一つの重要な考え方に「栄養はバランスよく摂るべき」というのがあります。これは、栄養欠乏症を予防するためにまんべんなく、最低必要量はしっかり摂りましょうというものです。

 

15-17世紀の大航海時代、長い間航海に出ている船員が「壊血病」という病気にかかっていました。これは、血管や皮膚の張りがなくなり、全身から出血しやすくなって、最後には死に至る病気です。当時は原因も分からず、「大航海の病」といわれました。その後、1753年に、英国海軍の軍医であったジェームズ・リンドが試験的に新鮮な野菜や果物、特に柑橘類を船員に摂らせるようにしたところ、顕著な回復が見られました。有名なジェームズ・クック船長が1768年から3年間にわたる航海に出たときには、ザワークラフトや野菜、果物を積極的に摂らせるようにしたところ、壊血病を発症する船員が出なかったのです。

 

当時は、壊血病の原因は分かりませんでしたが、その後、1920年に発見されたビタミンCの不足が原因であると分かりました。ビタミンの発見の歴史は、欠乏症の原因究明の歴史でもあったわけです。

 

その後ミネラルが発見され、ミネラルの欠乏症でもさまざまな病気が起こることが分かってきました。三大栄養素にビタミンやミネラルを加えて、五大栄養素というようになりましたが、ビタミンやミネラルの位置付けというのは、あくまで「欠乏症」を起こさないための最低必要量を補えばよいという認識でしかなかったのです。

 

そういった歴史的背景があるため、欠乏症を起こさないように「栄養はバランスよく摂りましょう」という発想になっているのだと思います。

 

■ビタミンやミネラルは「必要推定量」だけでは「まったく足りない」

現在では、普通の生活をしている限りではビタミンやミネラルの「欠乏症」というもの(脚気や壊血病など)は起こりません。日本の厚生労働省が掲げるビタミンやミネラルの推定必要量というのは、この欠乏症を起こさないように不足を補うという意味で設定された最低ラインなのです。

 

このような旧来の栄養学の考え方が、現在に至るまで100年間続いているといってよいでしょう。そして残念ながら、医療現場ではこの100年前と変わらない発想が今でも主流となっているのです。

 

 

ビタミンやミネラルは身体のバランスを整えるためになくてはならないものです。しかも、最低量を補えばいいというものではなく、身体のなかで十分な機能を果たすためには、最低量の何十倍、あるいは何百倍もの量が必要なのです。

 

このようなことを明らかにしてきたのが、分子生物学の発展をベースにした「分子矯正医学(あるいは分子栄養学)」(以下分子栄養学)なのです。分子栄養学がどのようにして生まれてきたのか、また、どのような考え方に基づくのか。ビタミンやミネラルを推定必要量だけ摂ることの何が問題か。次回はその話をしていきましょう。

 

 

小西 康弘

医療法人全人会 小西統合医療内科 院長

総合内科専門医、医学博士

 

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