うつ病や発達障害…「脳や心の病気」の発症要因が分かってきた。知られざる「腸、脳の相関」【医師が解説】

マイクロバイオータと腸、脳の相関関係

うつ病や発達障害…「脳や心の病気」の発症要因が分かってきた。知られざる「腸、脳の相関」【医師が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

花粉症や喘息、アトピーなどのアレルギー性疾患、肥満症やそれに伴う糖尿病、心筋梗塞などの動脈硬化性疾患、うつ病、自閉症、過敏性腸症候群…これらは、21世紀になってから急激に増加している病気です。急増している原因はいくつか考えられますが、中でもマイクロバイオータ(ここでは腸内細菌叢〔腸内フローラ〕を指します)との関連性が注目されています。今回は、これまで「脳の病気」あるいは「心や精神の病気」であると考えられてきた疾患が、腸内環境やマイクロバイオータの影響をどれほど受けているかという観点からお話をしていきたいと思います。※本連載は、小西統合医療内科院長・小西康弘医師による書下ろしです。

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「脳が全身を支配する」という人体観が変わった

これまでの医学常識では、脳は身体全体を管理する統合的な情報管理センターであり、身体の細胞は一方的に脳からの指令に従って働いていると考えられてきました。

 

しかし、身体に存在するごく微量の化学物質を測定する技術が発展するに従って、身体の多くの細胞からホルモン以外のメッセンジャー物質が分泌されることが分かってきました。これらの物質は生理活性物質やサイトカインと言われます。最初に発見されたのは1980年台ですが、本格的に研究が盛んになったのは2000年代以降です。

 

生理活性物質と同じような作用をするものは、これまで知られているものとしては、ホルモンがあります。しかし、ホルモンは副腎皮質ホルモンや甲状腺ホルモンなど一部の特定の臓器からしか分泌されないのです。さらに、ホルモンは脳下垂体や視床下部といった脳からの指令を受けて分泌され、脳という情報管理センターの支配下にあります。

 

それと比べて、サイトカインなどのメッセンジャー物質は身体中の多くの細胞から分泌され、脳のコントロールを受けずに細胞間同士で密接に情報交換を行っていると分かってきました。さらには、細胞間同士だけではなく、腸内細菌叢(マイクロバイオータ)までもがメッセンジャー物質を分泌し、私たちの身体の細胞と双方向的な情報交換をしていることが分かってきたのです。

 

これは、インターネットの世界と似ていると言えます。インターネットができる前は、それぞれコンピューターのサーバーが独立して存在し、情報はすべてサーバーの中に集約されていました。中央集権的な情報管理だったのです。それが、インターネットが進み、情報がクラウド化されるにつれて、あらゆる情報はクモの巣のように繋がるようになりました。

 

「脳が全身を支配する」という人体観から、「人体は巨大なネットワークである」というまったく新しい人体観に変わったと言うことができるでしょう【図表】。この転換は、医学の在り方自体にも大きな影響を与えずにはいません。

 

【図表】人体観のパラダイムシフト

 

今回は、これまで「脳の病気」あるいは「心や精神の病気」であると考えられてきた疾患が、腸内環境やマイクロバイオータの影響をどれほど受けているかという観点からお話をしていきたいと思います。

 

まずは、先天的な脳機能の異常であると考えられてきた自閉症スペクトラムや発達障害が、実は腸内環境や身体のバランスが混乱した結果起こってくる後天的な病態であるということを話していきたいと思います。さらにはうつ病などの精神疾患や精神的なストレスで起こるとされる過敏性腸症候群も、環境要因を整えることで改善する可能性があるということを見ていきましょう。

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