太った人の脂肪細胞は、炎症のせいで細胞分裂できない
ではこの違いはどうして生じるのでしょうか? やせた人と太った人とで、どうしてこれほどまでに脂肪細胞の形や働きが変わってくるのでしょうか?
その原因は、脂肪細胞に起こる「炎症」が関係あることが分かってきました。
太った人の脂肪細胞では「炎症」が起こっているため、細胞分裂ができなくなると考えられています。実際に太った人の膨張した脂肪細胞の周りにはたくさんの炎症細胞が浸潤しています。炎症を起こした脂肪細胞が膨張して悪玉化することで、さらに全身に炎症を起こす炎症性のアディポカインを分泌するようになるというわけです。
つまり、脂肪細胞に炎症が起こり、悪玉化することで脂肪細胞が悪玉化し、糖尿病だけではなく、がんや動脈硬化性疾患の原因になる「肥満症」が起こるということです。
脂肪細胞に炎症を起こすのを抑えることが非常に大事だということが分かっていただけると思います。
脂肪細胞に炎症を生じさせる原因にはいくつかありますが、その一つにマイクロバイオータが関連していることが分かってきました。
■脂肪細胞に炎症を起こす「リポ多糖(LPS)」
腸内細菌の中には、その表面にリポ多糖(LPS)という分子を付けているものがあります。リポ多糖は血液中に入ると毒素のように振る舞い、身体に炎症を起こし、「エンドトキシン」とも言われます。
このリポ多糖が脂肪細胞に炎症を起こす原因の一つであることが分かってきました。太った人のリポ多糖を調べた研究では、やせた人に比べて、血液中のリポ多糖の濃度が高いことが分かっています。
このリポ多糖がどれほど体内に入るのかに関わるマイクロバイオータとして「アッカーマンシア」という細菌があります。
アッカーマンシアからはメッセンジャー物質が分泌され、腸管上皮に粘液を分泌するようにメッセージを出します。すると、腸管上皮は粘液を分泌し、上皮を覆う粘液層が分厚くなります。
アッカーマンシアがたくさんいる人は粘液層が分厚くなり、リポ多糖が体内に入って炎症を起こしにくくなります。脂肪細胞が炎症を起こさなければ、膨張して悪玉化しません。
逆にアッカーマンシアが少ないと、粘液層が薄くなり、リポ多糖が血液中に入り込みやすくなり、血液中のリポ多糖の値が高くなります。リポ多糖は脂肪細胞の細胞分裂を妨げ、脂肪細胞を膨張させ、悪玉化します。たくさんの中性脂肪を溜め込み、膨張した悪玉化脂肪細胞は、悪玉のアディポカインを分泌し、インスリン抵抗性や動脈硬化などを促進するということです。
ある研究では、やせた人にはこの細菌が多く、全体の4%を占めているのに対し、太った人ではほとんどゼロでした。
このように、マイクロバイオータの状態は、糖質や脂質の吸収率、あるいは貯蔵率、さらに、脂肪細胞の炎症や脂肪細胞の悪玉化などに密接に関連していることが分かっていただけたかと思います。
善玉菌であるバクテロイデス菌やアッカーマンシアが腸内で増えると、糖質や脂質の吸収を抑え、余分なカロリーを取り込まないようにします。たとえ、カロリーを多少余分にとっても、脂肪細胞が細胞分裂を起こして、余分なカロリーを蓄えてくれます。通常の脂肪細胞はある程度脂肪を蓄えると、アディポネクチンやレプチンなどの善玉のアディポカインを分泌して、体重を減らす方向に調節してくれます。
逆に、ファーミキューテス菌が増えると糖質や脂質の吸収率が上がり、脂肪細胞に脂肪を蓄えやすくなります。さらに、アッカーマンシア菌が減ることで、血液中にリポ多糖が増え、脂肪細胞に炎症を起こします。炎症を起こした脂肪細胞は細胞分裂することができずに膨脹し、悪性のアディポカインを分泌するようになり、動脈硬化やインスリン抵抗性を起こすようになるのです。
このように、マイクロバイオータの状態は肥満症と非常に密接に関係しているのです。