財政規律を守って、日本が滅んでしまうのか
藤井 だから、こうした国難に対するさまざまな政府の取り組みにおいても、財政規律を気にしていてはダメなはずなんです。たとえば、プライマリーバランス規律によって国債の発行額の制約を考える場合でも、そういった台湾有事、北朝鮮有事、首都直下地震・南海トラフ地震などの将来起こりうる国難についての危機対応に関する支出は、制約から除外することが必要なはずです。
そうした国難対策が、財政規律によって滞ってしまっては、日本という国そのものが根底から瓦解してしまうんですから。だから、そういう国難対策は、財政規律ではなく、純粋にその対策の「必要性」に基づいてその内容を検討すべきなんです。
もしも岸田さんが、このようなものも含めて幅広く、そして正しく「国難」というものを正確に認識しておられるなら、岸田さんの「所得倍増」計画は確実に成功するでしょう。繰り返しますが、私たちの日本経済で不況がずっと続いているということそれ自体が国難なんですから、岸田さんは、そんな不況に終わりが告げられるまで、財政規律=プライマリーバランス規律を一定程度凍結しながら、しっかりと政府支出を拡大し続けることになるはずだからです。
でも、岸田さんが、長引くデフレ不況やさまざまな有事を「国難」と認識しないのなら、ある程度コロナ対策をやってからは、再びこれまでの「古い自民党政治」のように、財政規律を重視して、政府支出を削り、早晩消費税も値上げしたりして、日本経済はこれまで通り、世界のなかで唯一、成長せず、低迷し、私たち9割の国民はずっとお金持ちになれずじまいとなってしまうでしょう。
つまり、岸田さんがいったい何が国難なのか、ということを過不足なくしっかりと理解すれば日本経済の未来は明るいのですが、そうでない限り、「分配」の見直しのおかげで私たちの所得が年間で多少改善されることはあったとしても、その程度で日本の経済の改善は「打ち止め」になって、貧困や格差の問題は抜本的に改善することはないでしょう。
――なるほど……岸田さんには私たち国民のためにぜひともしっかり頑張っていただきたいですが……、藤井先生は、岸田さんは所得倍増の実現に向けた正しい経済政策を断行なさると思いますか?
藤井 何ともいえませんねぇ……。ひょっとすると厳しいかもしれませんね……。でももちろん、期待はしたいですよね。また岸田さんにはお時間をとってもらって、このあたりのお話をしっかりとご説明差し上げ、日本の未来のために必要な経済政策をしっかりやってもらうよう、改めてお願いしたいと思っています。
だから私たち国民はそうやって岸田総理に期待すると共に、ちゃんとした対策をやるかどうかを監視して、必要に応じて支援したり、あるいは逆に批判していったりする姿勢が大切なんだと思います。
――結局、それこそが民主主義、っていうものだ、という話ですよね。
藤井 そうです、まさにおっしゃる通りです(笑)。しっかりと監視しつつ、支援と批判を繰り返す、っていうのが、民主主義において国民が政府に対して取るべき正しい態度、ですものね。しっかりと監視、支援、批判を行って参りましょう。
藤井 聡
京都大学大学院工学研究科教授 元内閣官房参与
木村 博美
フリーランスライター
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