「分配」の見直しだけで所得倍増は実現しない
■プライマリーバランスを撤廃できるかどうか
――岸田さんは、それをわかっていらっしゃるんでしょうか?
藤井 そこがよくわからないんです。たとえば、総裁選の候補者のお一人だった高市早苗さんは、この話を理解されていました。だから、総裁選のときに、「アベノミクスが成功しなかったのは、財政政策が十分できなかったからだ。
だから、アベノミクスをベースとした『サナエノミクス』では、財政規律を凍結して、日本経済がしっかり成長するまで、国債をしっかり発行して財源を調達し、徹底的に財政拡大を図っていく」とおっしゃっていたんです。
彼女が言及した「財政規律」というのは、政府が国債を発行する際の制約を意味しており、具体的には「プライマリーバランス規律」というものです。この点についても、連載のなかで詳しくお話ししていきますが、要するに今の日本政府は国債発行(借金)の金額について「上限」を設けており、この上限制約のために政府はしっかり国民のためにおカネを使えない、という状態になっている。
だから安倍内閣は、だったらしょうがないってことで、消費税を増税して、財源を調達しようとしたわけです。それと同時に、政府支出も徹底的に切りつめていったんです。
つまり、安倍さんがアベノミクスの財政政策をしっかりできなかったのは、プライマリーバランス規律という財政規律があったからなのです。高市さんはそのことをしっかりと理解し、だからこそ、「経済の調子がよくなるまで、プライマリーバランス規律を凍結します」と宣言されたわけです。
――岸田さんは、そんな宣言はされていないのですか?
藤井 そこが微妙なんです……。岸田さんの発言をうかがっていますと、「国難」のときにプライマリーバランス規律を気にして、国債発行額に制限を加えてしまうのは愚の骨頂だ、そんなことをしていれば、日本は潰れてしまう。だから、今のコロナ禍で大変な国難のときには、プライマリーバランス規律は凍結しなきゃいけない、と明言されています。これは大変に素晴らしいご発言です。
ですがそれと同時に、長期的には、財政再建はやらなきゃいけない、とも言明されている。
■国民が「民主主義」を実行すれば所得は倍増できる
藤井 理論的にいえば、財政の再建、なるものは、経済が再建されなければ絶対にあり得ないので、高市さんがおっしゃったように、完全に経済の調子が良くなって、経済が再建されるまでは、財政再建のために予算の切りつめだとか消費税増税だとかは絶対にやらない、ということが必要なんです。
でも、岸田さんは国難のときには財政規律は凍結するとはおっしゃっているんですが、いったい何が国難なのかをしっかり言明されていない。
少なくとも、今のコロナ禍が岸田さんにとっての国難だということなんだと思いますが、これも連載のなかで詳しくお話ししますけど、1997年の消費増税が日本経済に与えた大打撃も大事件だったわけで、そのせいで日本は全く成長できなくなって、いまだに、デフレ不況から我が国は脱却できていません。コロナの問題が消えてなくなっても、デフレ不況という「国難」のまっただ中に我が国はいるといわざるを得ない状況なんです。
さらにいうと、首都直下地震が起これば800兆円レベル、南海トラフ地震が起これば1400兆円レベルの経済被害が生ずるともいわれていますから、これもまた、来たるべき国難です。尖閣問題を含めた台湾有事にしても、さらには北朝鮮有事についても「国難」というものになるでしょう。