円安進行!それでも日本が「ハイパーインフレ」にならない理由

2013年3月以降、日本銀行は数百兆円規模で国債を買い取って、日本円を新たに発行したにもかかわらず、インフレ目標の2%にすら届きませんでした。日本は戦後から随分と豊かになって国内の供給力が十分あり、ちょっとやそっとではインフレにならない状態だといいます。元内閣官房参与の藤井聡氏が著書『なぜ、日本人の9割は金持ちになれないのか』(ポプラ新書)で解説します。

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ハイパーインフレはインフレ率13000%の状態

■税金は財源ではない

 

――じゃあ、政府がどんどん借金したほうがいいというわけですか? 赤字国債をどんどん発行して、おカネをつくり出して、それを財政に回せばいいのなら、私たちの税金なんて必要なくなるんじゃないですか?

 

藤井 よくある質問ですが、「誰も税金なんて払わなくていい」というわけにはいきません。もちろん政府はやろうと思えば国債を無限に発行して財政出動(政府が公共事業などに投資したり、政府の資金でモノやサービスを購入したりすること)を行い続け、民間に貨幣を無尽蔵に供給することはできます。

 

でも、だからといって、政府が税金を取らずにジャブジャブおカネを国民に支払い続ければ、みんながとてつもなくお金持ちになっていく。そうなると、みんながいろんなモノやサービスを買いまくります。でもモノやサービスの量は一定ですから、どうなると思います?

 

――そうなると……物価が上がっていきますよね?

 

藤井 そうです。要するに、「需要」に「供給」が追いつかなくなっていくから、必然的に物価が上がってしまうのです。たとえば、新型コロナウイルスが流行し始めたころ、感染予防でマスクを買いたい人はいっぱいいるのに、生産が間に合わなくて量が足りず、マスクの値段が高騰しましたよね。社会状況は違うけど、供給が需要に追いつかなくて物価が上がる、というのはそういうことです。

 

ちなみに、物価が上がることを「インフレ」と呼んでいます。また、なかでもその物価上昇率が凄まじい状況になっていることをしばしば「ハイパーインフレ」といいます。第一次世界大戦後のドイツでは、たとえばジャガイモ数個を買うのにリュックいっぱいの現金が必要になって、お札がほとんどただの紙切れになってしまう、なんてことが起こりました。それが「ハイパーインフレ」という状況です。ケーガンという経済学者によると、ハイパーインフレの定義は、インフレ率(物価上昇率)が年率約13000%を超える状況です。

 

――ということは、昨年まで100円で買えたモノが……1万3000円になるわけですよね。おお、こわっ!

 

藤井 まぁ、そんなことが起きる場合は極めて稀です。戦争で国内の生産能力が破壊されたり、大きな革命が起きて旧体制が瓦解したりした場合くらいです。

 

なんにしても政府が税金も取らないで、ただただ政府支出だけを続ければ、そんな極端なハイパーインフレなんかにならなくても、そのうちインフレになります。いい感じでゆっくりと物価が上がっていくインフレは、実は社会にとってとても良い状況です。それを通して私たちの給料も上がっていくため、社会全体が豊かになっていくからです。戦後の高度成長期なんかは、ちょうどそんな感じですね。みんなが豊かになっていった。

 

でも、給料の上がり方よりも物価の上がり方が早くなるくらい過剰なインフレになると、庶民の暮らしは当然、苦しくなる。そんなスゴいインフレ状況のなかで、政府が国債を発行して政府支出をさらに続けてしまうと、インフレがますますひどくなって、庶民の暮らしはもっと苦しくなってしまう。

 

つまりインフレがひどくなると、政府が福祉だとか教育だとか国民のための政府支出をやればやるほど、そのインフレがさらにひどくなって、どんどん国民は苦しくなっていく、という悪夢のような状況に陥るわけです。

 

だから、そんな過剰なインフレを避けつつ、そして政府が政府として必要な福祉だとか教育だとかにおカネを使い続けられるようにするためには、政府は世の中のおカネの量を増やすだけでなく、「減らす取り組み」もしておかないといけない。

 

それこそが、「税金」という仕組みです。

 

つまり政府は、「政府支出」でもっておカネを供給し、「税金」でおカネを吸い上げて、国民があまりに金持ちになりすぎないようにしているわけです。そうやって「税金を取る」という仕組みを導入することで、過剰なインフレにならないようにしつつ、必要な政府支出を続けることが可能となるわけです。

 

繰り返しますが、政府が税金も取らずに福祉や教育などの支出を毎年続ければ、不適切なインフレになって、政府支出も続けられなくなる。だから、福祉や教育をやるためには、税金システムがどうしても必要なんです。

 

経済学者も含めたほとんどの人は、「福祉や教育の財源のために、税金が必要だ〜!」といっていますが、それは間違い。税金なんかなくても、政府はおカネをいくらでもつくれるんだから、福祉や教育はいくらでもできる。しかし、それでは過剰インフレになるから、その調整のために税金が必要なんですね。

 

――そんな話、初耳です。てっきり、政府は税金で取り立てたおカネを使って、政府支出をしているものとばかり思っていました。

 

藤井 それが当たり前の、みなさんの常識的なイメージですよね。でも、それって、政府がおカネをつくれるんだ、ということを忘れた間違ったイメージなんです。政府は、過剰なインフレになることを避けるために、「ガス抜き」のように税金を取っているのであって、支出するための財源として税金を取り立てているわけじゃないんですね、本当のところは。

京都大学大学院工学研究科教授
元内閣官房参与

1968年、奈良県生まれ。京都大学大学院工学研究科教授(都市社会工学専攻)。元内閣官房参与(防災・減災ニューディール担当)。京都大学工学部卒業、同大学院修了後、同大学助教授、イエテボリ大学心理学科客員研究員、東京工業大学大学院教授などを経て、2009年より現職。2012年より18年まで安倍内閣において内閣官房参与。2018年よりカールスタッド大学客員教授、ならびに『表現者クライテリオン』編集長。文部科学大臣表彰、日本学術振興会賞など受賞多数。専門は公共政策論、都市社会工学。近刊に『令和日本・再生計画』(小学館)、『こうすれば絶対よくなる!日本経済』(アスコム刊、田原総一朗氏との共著)、『ゼロコロナという病』(産経新聞出版刊、木村盛世氏との共著)などがある。

著者紹介

フリーランスライター

フリーランスライター。OLを経て、新聞や雑誌で放送関係の記事を執筆。イギリス遊学後、女性の生き方から科学、宗教、アフリカの貧困問題など興味のあるものは何でも書き、書籍のライティング(聞き書きスタイルの執筆)でベストセラーを手掛ける。著書に『生きて生きて生きて 愛の極みまで 16人の宣教者+曽野綾子』(海竜社)、『「自分を変える」ということ』(齋藤直子との共著 幻冬舎)。

著者紹介

連載令和版「所得倍増」計画はこうすれば実現する

本連載は藤井聡氏の著書『なぜ、日本人の9割は金持ちになれないのか』(ポプラ新書)から一部を抜粋し、再編集したものです。

なぜ、日本人の9割は金持ちになれないのか

なぜ、日本人の9割は金持ちになれないのか

藤井 聡 木村 博美

ポプラ新書

「日本経済の5つの嘘」にだまされるな! この「嘘」に気付かなければ、あなたは一生貧乏でいるしかない。富裕層だけが知っている日本経済のからくりとは? コロナ禍をうまく脱却すれば、日本人はやっと金持ちになれる。 安…

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