買物が楽しかった時代があった。(※写真はイメージです/PIXTA)

店舗にはメディアとしての価値があると考えるべきです。その価値を測らなければ、閉めなくていい店まで閉鎖してしまうだけでなく、多くの店の閉鎖とともに、「実店舗」のメディアの価値をドブに捨てることになります。どのように考えればいいのでしょうか。小売コンサルタントのダグ・スティーブンス氏が著書『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』(プレジデント社)で解説します。

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    実店舗の価値を広告換算してみると

    ■実店舗の価値を正しく評価する

     

    店舗が持つ真の生産性を的確に測るには、どうすればいいのか。実は、業界のマーケティング活動ではすでにお馴染みの指標があり、ここに注目すればいいのだ。

     

    だが、どういうわけか、今まで実店舗の評価に使われたことがない指標である。その重要な指標とは、「媒体別インプレッション」という指標である。言い換えれば、実店舗での体験によってブランドの印象がどのくらい上がるのか、あるいは下がるのかを数値化するのだ。

     

    実例を挙げよう。以前、20以上のブランドを抱える大手美容企業のマーケティング責任者と話をしたことがある。同社が手がけるさまざまなブランドの実店舗を訪れた年間来店客数を尋ねた。すると、およそ1億人だという。

     

    そこで、興味本位でこんな質問を重ねた。年間1億人の消費者にブランドを訴求するつもりで大手の広告代理店と組んだら、いくらくらいかかると思うか、と。ここで言う「訴求」とは、ユーチューブで30秒のプレロール広告(動画閲覧直前に挿入される広告)やインスタグラムのスポンサー投稿を消費者に見せるといったレベルではない。もっと長め(20~30分)の尺で、内容に没頭できるくらいのメディアを味わってもらうことである。

     

    顧客がブランドのストーリーをしっかり咀嚼し、商品について知識を深め、ブランドのコミュニティやカルチャーの一端に触れてもらうためのメディア体験だ。言い換えれば、本当に中身があって、簡単に忘れられないような内容で、人間の心に訴えるメディア体験のことである。

     

    すると、「とんでもないコストがかかりますよ。それも天文学的な金額がね」と言う。確かにそうだろう。そのようなキャンペーンにかかるコストは、世界屈指の巨大企業でもおいそれと予算を組めない金額になるだろう。

     

    だが、こう考えることもできる。彼の来店客数の説明から言えば、同社のブランドはすでに同等の効果のあるメディア体験を提供して、同じくらいの数のオーディエンスを取り込んでいたことになるではないか。問題は、同社がその価値を財務諸表のどこにも計上していないことなのだ。いや、そもそも価値を測ってもいなかったのである。

     

    別の言い方をするなら、ある美容系のブランドが店舗で年間1億人の顧客と接触しているとすれば、これほどのブランドのインプレッションを生み出す店舗は、CMなど他の方法で同等のインプレッションを生み出す場合の市場価値と最低でも同じと見ていいはずだ。

     

    実店舗はもはや、単なる商品流通の拠点ではない。実店舗固有の価値を生かしたリターンが期待でき、顧客獲得戦略の文脈で語るべき存在になっているのだ。この価値を説明しなければ、実店舗による小売りの価値を完全につかんだことにはならない。

     

    次ページ相次ぐ店舗閉鎖は本当に正しいのか?

    ※本連載は、ダグ・スティーブンス氏の著書『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』(プレジデント社)より一部を抜粋・再編集したものです。

    小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」

    小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」

    ダグ・スティーブンス

    プレジデント社

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