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賃上げの重要性
依然として厳しい雇用所得環境
当面は貯蓄率の引き下げによって個人消費の回復を実現することが可能だが、貯蓄率が平常時の水準に戻った後は、従来と同様に可処分所得の動向が個人消費を左右することになるだろう。
コロナ禍では経済対策による各種の給付金が可処分所得を大きく押し上げているため、雇用者報酬と可処分所得の動きが乖離している[図表8]。
しかし、新型コロナ対策一巡後の可処分所得は、その約9割を占める雇用者報酬との連動性を高めるだろう。
GDP統計の実質雇用者報酬は、最初に緊急事態宣言が発令された2020年4~6月期に急速に落ち込んだ後、2020年末にかけて持ち直したが、2021年入り後は横ばい圏の推移にとどまっている。
実質雇用者報酬※の内訳を見るために、実質雇用者所得(雇用者数×一人当たり名目賃金÷消費者物価)の動きを確認すると、2020年4~6月期に雇用者数、一人当たり名目賃金ともに大きく落ち込んだが、2020年後半以降は持ち直しの動きが続き、2021年4~6月期には前年比で増加に転じた。
※ 雇用者報酬は雇用者所得(雇用者数×一人当たり賃金)に近い概念だが、賃金・俸給のほかに雇主の社会負担(厚生年金の負担金、退職一時金等)などが含まれるため、雇用者所得とは動きが若干異なる。
しかし、景気の持ち直しが限定的にとどまる中で、名目賃金は伸び悩みが続き、雇用者数は2021年10~12月期には減少に転じた。原油をはじめとした資源価格の高騰によって消費者物価が上昇に転じたことも実質所得の押し下げ要因となっている。
2021年10~12月期の実質雇用者所得は前年比▲0.8%、コロナ前の2019年と比較した前々年比では▲2.7%となった[図表9]。
ベースアップが重要
消費者物価(生鮮食品を除く総合)はゼロ%台の伸びにとどまっているが、原油高、円安に伴うエネルギー、食料品価格の高い伸びが続く中、消費者物価を▲1%以上押し下げている携帯電話通信料の大幅値下げの影響が縮小する2022年度入り後には1%台後半まで伸びを高める公算が大きい。名目賃金の伸び悩みが続けば、物価の上昇ペース加速によって実質賃金の低下幅はさらに拡大するだろう。
岸田政権は3%の賃上げ目標を掲げており、2022年度税制改正では「賃上げ促進税制」が盛り込まれた。 ただし、賃上げ促進税制自体は、アベノミクスが始まった2013年度に創設されたものであり、その後修正を繰り返しながら継続してきた。
しかし、これまでは賃金の伸びが大きく高まることはなく、目立った成果をあげることはできなかった。
今回の改正では、減税の適用要件の変更(たとえば、大企業の場合、「新規雇用者への給与総額が前年度比2%以上」から「継続雇用者への給与総額が前年度比3%以上」に変更)、税額控除の対象、控除率の変更などが行われたが、これまでの制度を抜本的に変えるようなものではない。税制改正による効果は限定的にとどまる可能性が高いだろう。
労務行政研究所の「賃上げに関するアンケート調査」によれば、2022年の賃上げ見通し(対象は労・使の当事者および労働経済分野の専門家約500人)は平均で2.00%と、前年を0.27ポイント上回った[図表10]。
2021年に1.86%と8年ぶりに2%を下回った春闘賃上げ率(厚生労働省の「民間主要企業賃上げ要求・妥結状況」)は、2022年には再び2%台となる可能性が高いが、政府が目標とする3%には遠く及ばないだろう。
一般的に賃上げ率の指標として用いられる数字は、定期昇給を含んだものであることには注意が必要だ。労働市場の平均賃金上昇率に直接影響を与えるのは定期昇給を除いたベースアップである。中央労働委員会の「賃金事情等総合調査」によれば、賃金改定率のうち定期昇給分は概ね1.7~1.8%程度で推移している[図表11]。
2022年の春闘賃上げ率が2%程度まで上昇したとしても、定期昇給を除いたベースアップは0.2~0.3%程度にすぎない。消費者物価は2022年度を通して1%台の伸びが続くことが予想されるため、ベースアップとの連動性が高い所定内給与は実質ではマイナスの伸びが続く公算が大きい。
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