経済正常化の鍵を握る個人消費…当面は貯蓄率の引き下げ、中長期的には賃上げによる可処分所得の増加が重要

経済正常化の鍵を握る個人消費…当面は貯蓄率の引き下げ、中長期的には賃上げによる可処分所得の増加が重要
(写真はイメージです/PIXTA)

世界的に経済の正常化が進むなか、日本経済の回復が遅れています。本記事ではニッセイ基礎研究所の斎藤太郎氏が、データをもとに経済低迷の原因と回復のための方策について解説します。※本記事は、ニッセイ基礎研究所のレポートを転載したものです。

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    個人消費の低迷が長期化する理由

    消費主導の景気回復が実現しない日本

     

    コロナ禍では、店舗休業や時短営業などの影響を直接受ける個人消費の低迷が目立っている。ただし、GDP統計の個人消費の伸びが2014年度から7年連続で実質GDP成長率を下回っていることからも分かるように、近年の個人消費は新型コロナの影響を受ける前から弱い傾向が続いていた[図表4]。

     

    [図表4]実質GDP成長率を下回り続ける個人消費の伸び
    [図表4]実質GDP成長率を下回り続ける個人消費の伸び

     

    そもそも、日本では消費主導の景気回復が実現したことがほとんどない。GDP統計で遡ることができる1955年以降の13回の景気回復局面のうち、個人消費の伸びが実質GDP成長率を上回ったのは、1971年10~12月期を谷とした第7循環のみである[図表5]。
    ※ 1955年~1979年は1968SNA(1990年基準)の計数を用いた。

     

    [図表5]景気回復期の個人消費とGDPの関係
    [図表5]景気回復期の個人消費とGDPの関係

     

    景気回復局面における実質GDPに対する個人消費の相対的な伸びは平均で0.76と低い。個人消費の伸びが実質GDP成長率を上回ることを消費主導の景気回復とすれば、それが実現したことはほとんどないと言ってもよい。

     

    特に、2012年10~12月期を底として2018年7~9月期まで6年近く続いたアベノミクス景気では、実質GDP成長率が年平均1.1%だったのに対し、個人消費の伸びは年平均0.3%の低い伸びにとどまった。実質GDP成長率に対する個人消費の相対的な伸びは0.24と、過去の景気回復局面の中では最も低いものとなった。

     

    GDPが増えたとしても、個人消費が増えなければ国民が経済的に豊かになったとは言えない。消費主導の経済成長を目指すべきである。

     

    可処分所得の低い伸びが消費低迷の主因

     

    1990年以降の景気回復局面における実質家計消費支出の伸びを要因分解すると、全ての局面で家計消費支出の伸びが可処分所得の伸びを上回った[図表6]。
    ※ 家計の所得支出勘定は1994年以降しかデータが存在しないため、第12循環以降の5局面について分析した。なお、第12循環は1993年10~12月期を谷として始まるが、当期のデータがないため、1994年1~3月期を起点とした。

     

    [図表6]実質家計消費支出の要因分解
    [図表6]実質家計消費支出の要因分解

     

    このことは、可処分所得の低い伸びが消費低迷の主因であることを意味している。個人消費が低迷する理由として、家計の将来不安や節約志向による過剰貯蓄が挙げられることも多いが、消費性向はむしろ消費の押し上げ要因となっている。必ずしも過剰貯蓄が消費の長期停滞の主因とはいえない。

     

    第16循環のアベノミクス景気について詳しくみると、一人当たり賃金は伸び悩んだものの、雇用者数が大幅に増加したことから雇用者報酬は高い伸びとなったが、マクロ経済スライドや特例水準の解消による年金給付額の抑制、年金保険料率の段階的な引き上げなどが可処分所得を大きく押し下げた。

     

    さらに、消費税率引き上げの影響もあって、家計消費デフレーターが年平均で0.6%上昇したことも実質ベースの可処分所得の目減りにつながった。
     

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    ※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
    ※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2022年2月28日に公開したレポートを転載したものです。

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