歴史ある建築物には、すでに途絶えてしまった技術や、貴重な素材なども含めた「文化的価値」があります。歴史的建築物の再生・活用を中心に活躍する一級建築士の鈴木勇人氏は、「このような建物の活用が、地方創生もつながる可能性がある」と、本記事で語っています。

歴史的な建築物の活用には、多くの人の協力が必須

重文民家(国指定重要文化財民家)を例にとると、現在、重要文化財建造物のうち民家と呼ばれるものはおよそ400軒あり、そのうち個人所有は半分の約200軒です。残りの200軒は個人の手から離れて、主に自治体の所有となっています。

 

なぜ本来の所有者が代々受け継いできた自宅を手放すのかというと、維持管理費の負担に耐えられないからです。その維持管理費は年間500万円から数千万円にものぼります。

 

重文民家の所有者のおよそ4割は年金受給者であり、そのほかは会社員です。「重文民家の所有者なのだから資産家なのでは?」と思われがちですが、不動産収入等で維持管理費をカバーできる所有者は全体の1割程度ということです。多くの所有者が費用の負担に苦しんでいるという状況で、その負担が限界を超えると、やむにやまれず家を手放し、自治体に管理を任せるという流れになるわけです。

 

ところがその自治体も財政難によって十分な管理ができないという現実があります。重文民家の多くは地方にあり、地方は少子高齢化等の影響で税収が減っているということも指摘でき、八方塞がりといえます。

 

個人にせよ自治体にせよ維持管理費の負担が大きいことに変わりはなく、それをカバーする一つの方法が一般公開による見学料の徴収です。ところが一般公開をしている重文民家の多くは見学料が数百円、なかには無料公開をしているところもあります。このような状況では、維持管理費をカバーするどころではなく、人件費で足が出てしまいます。

 

ではなぜ、そうまでして一般公開をするのかというと、広く人々に文化財に親しんでもらうために公開の努力義務が求められているからです。もはやこれは所有者の善意や使命感によって支えられているといっても過言ではないでしょう。

 

こうした状況に対してなにも手を差し伸べないというのは、やはり看過できないことだと私は思います。一般の市民が寄附をしたり、あるいは見学料の値上げを容認したりといったことが必要です。「古い建物は残すべき、公開もするべき、でもお金は出したくない」では文化は痩せ衰えていく一方です。

 

歴史的・文化的価値のある建築物を活用していくためには、当事者だけではなく、多くの人の協力が欠かせません。その根底には建築文化への理解、ひいては愛情が必要だといえるのです。

 

 

鈴木 勇人

ボーダレス総合計画事務所 代表取締役

 

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