(※写真はイメージです/PIXTA)

ビジョンを示すことがそんなに重要なのかと思う人もいるかもしれません。社員のみならず、社外の利害関係者や社会に向かってビジョンを示すメリットは計りしれません。それはなぜでしょうか。著書『事業計画書の作り方100の法則』(日本能率協会マネジメントセンター)で解説します。

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ビジョンは誰でも簡単にイメージできるか

ビジネスでそもそもビジョンが必要かという議論があります。

 

ある程度先が読める時代や、会社の将来像が延長線上に見えるような場合にはなくても済みますが、先読みがしにくい時代や大きく変わらなければならない状況の場合には、将来像としてのビジョンが必要となります。

 

そうした際にビジョンがないと、暗闇の中を手探りで進むような格好になり、不安で一杯のため進む足取りが遅くなります。一方、たとえ周りが暗くても、進むべき先に明かりが灯り、その先に向かってうっすらと道が浮かび上がっていれば、安心して足早に前に進むことができます。本来経営ビジョンとはそうした役割を果たすべきものです。

 

ただ、会社のホームページに掲載されている経営ビジョンを見ると、「△△業界のエクセレントカンパニーを目指す」とか、「△△のイノベーターを目指す」等抽象的な表現が多いです。こうした抽象的な表現では、幹部や社員に進むべき方向を示す役割を果たせません。お飾りのビジョンでよければ、それでも良いのですが、本気で実現したいのであれば、次にいう優れたビジョンの条件に当てはまるようにビジョン設定を行う必要があります。

 

企業変革論のジョン・P・コッターは、その主著「企業変革力」の中で、優れたビジョンの条件を6つ挙げています。

 

その第1が、将来のイメージが明確であることです。

 

先程、夜道の話をしましたが、ビジョンは、暗い夜道の先の灯、船で言えば灯台の役割を果たさなければなりません。そしてここでいう将来のイメージというのは、その将来像が実現したらどのようになっているかという実現状態のことを指します。

 

ですから、先のエクセレントカンパニーであれば、そうなれたらどんな状態になっているかということを示せている必要があるのです。ただ単に、何となくとても良い会社ということでは、実現イメージが湧きませんので、ビジョンとしての求心力は持てません。

 

第2は、関係者とWin-Winの関係になれることです。

 

これは、会社には様々な利害関係者がいますが、示したビジョンがそれら利害関係者から歓迎されるものでないといけないということです。これを共感性と呼びます。顧客や株主、取引先、従業員とその家族、その他自社と関わる様々な利害関係者から共感し、支持されるような将来像を示す必要があるわけです。

 

これ以外に、第3.十分な実現性を持っていること、第4.明確なアクションプランがあること等がありますが、まずは上記の2つが最も重要な優れたビジョンの条件ということです。

 

出典:「企業変革力」ジョン・P・コッター著、梅津祐良訳 日経BP社
出典:「企業変革力」ジョン・P・コッター著、梅津祐良訳 日経BP社

 

ポイント
優れたビジョンの条件に該当するビジョン設定をする

 

ビジョン・ストーリーでイメージと共感性を持たせる

ジョン・P・コッターの言うところの優れたビジョンの条件に当てはまるようなビジョンにするために、筆者が10年以上前から取り組んでいる手法にビジョン・ストーリーがあります。

 

一般的なキーワードによるビジョン設定が概念的・抽象的なものになりがちなのに対して、具体的な将来像をその場にいるような描写で表現するので、イメージが湧く、共感できると好評です。

 

(1)ビジョン・ストーリーとは

5年後、3年後など特定の将来時点で会社や組織、個人がどのようになっていたいかを、短いストーリー形式で表現するものです。一話A4サイズ1枚以内程度の長さで、参加者が、ストーリー作りのファシリテーションを受けながら、会社や組織のいろいろ場面を生き生きと描写します。

 

実在の登場人物が会話を交わしたり、何か新しいことに取り組んだり、何かを成し遂げたりすることで、その結果・成果をみんなで喜び合ったり、称え合ったりする場面が描かれます。

 

たとえ現在が厳しい、苦しい状況に置かれていても、将来はこうなりたいと希望や夢を語ることで、参加者の共感が生まれます。

 

また、その将来像に至る工夫や努力についても語られるので、単なる夢物語ではなく、「ひょっとして実現可能ではないか?」と錯覚するほどです。書いた本人も物語に登場したりするので、本人によるその夢の実現意欲が高まります。

 

(2)ビジョン・ストーリーの作り方

①予めビジョンのキーワード設定などを行っておきます。


② ビジョン・ストーリー作りの参加者が集合し、ファシリテーターの指導のもと、脱抑制状態となり、望ましい将来を想像しながら、その状態をフレーズに表します。

 

③ そのフレーズを整理した上で、担当を決め、ファシリテーター指導の下でストーリー作りを行います。

 

④ 出来上がったストーリーを参加者で共有し、必要に応じて手直しを加え完成させます。

 

⑤ ストーリーを集め、ストーリー集を作り、関係者で共有します。冊子やマンガ、朗読録音等いろいろな媒体を使います。

 

(3)ビジョン・ストーリーの効果

将来像が明確になることで、メンバー、社員のモチベーションが高まります。特に若い社員の共感度が高く、エンゲージメントを高めるのに効果的です。作成した本人や共感者の実現意欲が高まり、実際にそのビジョンを実現する人が現れます。

 

 

ポイント
将来イメージと共感性が湧くストーリーを作る

 

次ページ長期ビジョンと中期計画で時間軸のバランスを取る

※本連載は、井口嘉則氏の著書『事業計画書の作り方100の法則』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋・再編集したものです。

事業計画書の作り方100の法則

事業計画書の作り方100の法則

井口 嘉則

日本能率協会マネジメントセンター

経営環境が激変する最悪シナリオを乗り切る「事業計画書」の立て方・作り方とは? 「ビジョン・戦略立案フレームワーク」で何を/どの段階で行うかがわかる“これからの”実践教科書。 コロナ禍にあっても、事業計画の立…

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